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九州大学 研究Discovery Saga
2026年10月1日

薬剤耐性菌の制圧に向けた創薬の新展開

アミノ酸マッピングによる新規阻害剤の効率的合成 農学研究院 中山二郎 教授

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
多くの既存抗生物質が効かない多剤耐性菌に対抗するため、次世代型抗菌薬としてHbox阻害剤の発展に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学複合領域数物系科学工学農学医歯薬学
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
最適化/環境変化/陽子/持続可能/持続可能な開発/シミュレーション/分子シミュレーション/マッピング/リン酸/病原性/微生物/チロシンキナーゼ/細胞毒性/アミノ酸/キナーゼ/遺伝子発現制御/抗菌薬/抗生物質/阻害剤/創薬/多剤耐性/多剤耐性菌/天然化合物/転写調節/転写調節因子/発現制御/有機合成/遺伝子/遺伝子発現/感染症/細菌/薬剤耐性
2026.09.30 研究成果Life & Health

発表のポイント

アミノ酸マッピング※1と呼ばれる新規計算手法によって、病原細菌が薬剤耐性を獲得・発揮するために重要な情報伝達タンパク質「ヒスチジンキナーゼ※2」を阻害する薬剤「Hbox阻害剤※3」を発見
アミノ酸マッピングにより、既存の阻害化合物の情報から1200万種の化合物を含むバーチャルライブラリーを効率的に調べることに成功
多くの既存抗生物質が効かない多剤耐性菌に対抗するため、次世代型抗菌薬としてHbox阻害剤の発展に期待

発表概要

 大阪大学産業科学研究所の岡島俊英准教授、内海龍太郎招へい教授、岡山大学学術研究院教育学域の石川彰彦教授、富士フイルム株式会社解析技術センターの津村享佑主任研究員、近畿大学生物理工学部の江口陽子教授、微生物化学研究会微生物化学研究所(BIKAKEN)の五十嵐雅之部長、および九州大学大学院農学研究院の中山二郎教授らの研究グループは、アミノ酸マッピング(Amino Acid Mapping、以下AAM)とよばれる新規計算手法(図1)と有機合成の手法を用いて、細菌ヒスチジンキナーゼを特異的に阻害する新規化合物を発見しました。
 類似の天然化合物からなる阻害剤は、これまでにも見出されていましたが、細胞毒性を示すうえに、複雑な構造のため有機合成による改良・最適化も困難でした。今回、富士フイルムの開発したAAMの手法を用いることにより、1200万種の化合物を含むバーチャルライブラリーから新規骨格を有する阻害剤のデザインと有機合成に成功しました。得られた阻害剤は多剤耐性化した病原細菌が持つヒスチジンキナーゼも阻害し、細菌を直接殺菌するだけではなく、その病原性や薬剤耐性を抑え込むことができ、薬剤耐性菌による感染症の発症や重症化を抑制できる可能性があります。
 本研究成果は、 Springer Nature社 『The Journal of Antibiotics』 に9月30日(水)付で公開されました。
図1



アミノ酸マッピングの概念図。AAM記述子は化合物周辺に計算される20種類のアミノ酸残基ごとの3次元存在分布であり、タンパク質の標的部位に結合しうる化合物の特徴が表現されています。

用語解説

※1 アミノ酸マッピング
アミノ酸マッピング(Amino Acid Mapping:AAM)では、タンパク質中に含まれるアミノ酸残基20種が特定の化合物周辺に存在する確率(3D分布のセット)を、化合物構造のみから分子シミュレーションによって計算します。これをAAM記述子といいます。得られたAAM記述子を2つの化合物間で比較するとき、化合物骨格が異なるにも関わらず、AAM記述子の類似性が高いことがあります。その場合、2つの化合物は同じようにアミノ酸残基と相互作用し、タンパク質と相互作用する可能性があります。結合化合物のAAM記述子によって、タンパク質の標的部位に結合しうる化合物の特徴が表現されているとみることができます。
※2 ヒスチジンキナーゼ
細菌の情報伝達・遺伝子発現制御に関わるキナーゼです。細菌周囲の環境変化などを感知すると、ヒスチジンキナーゼ自身の特定のヒスチジン残基をリン酸化します。このリン酸基が転写調節因子へ転移されることによって、生理的に重要な各種遺伝子の発現が調節されています。ヒトを含む動物ではセリン・スレオニン・チロシンキナーゼが重要な情報伝達系を形成しているのとは対照的です。ヒスチジンキナーゼは細菌が病原性や薬剤耐性を発現するために必須であるうえに、ヒトには存在しないため、抗生物質開発において重要な薬剤標的となっています。
※3 Hbox阻害剤
ヒスチジンキナーゼにおいて、リン酸化されるヒスチジン残基周辺は重要でありHbox領域と呼ばれます。Hbox阻害剤はこの領域に結合して、ヒスチジン残基のリン酸化を阻害します。それによって、ヒスチジンキナーゼの作用を阻害することができます。

論文情報

本研究成果は、2026年9月30日(水)付で、Springer Nature社 『The Journal of Antibiotics』(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Amino acid mapping–guided scaffold selection and hit identification of histidine kinase inhibitors from a virtual library of over 12 million compounds”
著者名:Teruhiko Ishikawa, Yoko Eguchi, Toshihide Okajima, Masayuki Igarashi, Shino Ohira, Kyosuke Tsumura, Kazumasa Sakurai, Yoshimasa Ishizaki, Chigusa Hayashi, Shammi Akter, Jiro Nakayama, Chie Kohayakawa, Akiyoshi Tani, Naoki Sawa, Takaomi Katsumoto, Fumiya Matsumoto, Jun-Ichi Haruta, Ryutaro Utsumi
DOI:10.1038/s41429-026-00953-9
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