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神戸大学 研究Discovery Saga
2026年10月1日

造血幹細胞移植後の「液性免疫の成熟」をB細胞受容体レパトア解析を用いて可視化

配列生成確率と体細胞超変異を統合した新解析法「pGen-SHM plot」を開発

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
十分な臨床検証を経た将来には、造血幹細胞移植後評価にとどまらず、ワクチン接種、感染症、がん免疫応答や自己免疫性疾患など様々な病態に対する免疫反応を評価するための検査系となることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
感染防御/アミノ酸配列/病原体/免疫系/液性免疫/臍帯血移植/GVHD/がん免疫/移植片対宿主病/幹細胞移植/免疫抑制/臍帯血/フローサイトメトリー/骨髄/細胞移植/造血幹細胞/B細胞/アミノ酸/ステロイド/幹細胞/血液/抗原/自己免疫/受容体/白血病/免疫応答/免疫細胞/CBT/バイオマーカー/ワクチン/遺伝子/感染症/抗体/骨髄移植/造血/造血幹細胞移植
2026.09.30

概要

神戸大学医学部附属病院 腫瘍・血液内科の船越洋平講師、藥師神公和准教授、南博信教授、感染症内科の大路剛准教授、Anymics株式会社松谷隆治氏らの研究グループは、B細胞受容体(BCR)配列が生じる確率(pGen)※1と、抗原刺激に伴う体細胞超変異(SHM)※2を一枚の図に統合し、造血幹細胞移植後※3のBCRレパトア※4の成熟を客観的・視覚的に捉える「pGen-SHM plot」※5を開発しました。
 臍帯血移植後※6には、未成熟な特徴を持つレパトアが約2年かけて健常成人に近い成熟パターンへ連続的に移行しました。一方、骨髄移植後早期※6には、移植片に含まれる成熟B細胞と、造血幹細胞から新たに生まれ成熟していくB細胞に対応すると考えられる2つの集団が分離して見えました。pGen-SHM plotにより、従来の指標では捉えにくかった「移植後の免疫再構築の過程」を可視化することに成功しました。
本研究成果は、2026年8月3日に国際学術誌『Blood Immunology & Cellular Therapy』にオンライン掲載されました。


ポイント

造血幹細胞移植後の液性免疫が、いつ、どのように再構築されるかを客観的に追跡する方法は確立されていませんでした。
pGen-SHM plotは、BCR配列の「生まれやすさ」を表すpGenと、抗原刺激による成熟を反映するSHM率を統合し、各配列の分布を二次元で可視化します。
臍帯血移植症例では、pGen高値配列とSHM低値配列の割合が移植後日数と強く逆相関し、pGen-SHMプロットは約2年かけて健常成人の領域へ近づきました。
骨髄移植症例では、移植後早期にpGen-SHMプロットにより異なる2つの集団を識別できました(幹細胞由来のB細胞及びドナーの成熟B細胞)。
レパトアを用いた解析として、多様性指数やCDR3長などが扱われてきましたが、膨大なデータをどのように計算処理すれば免疫状態を正確に評価できるかについては不明で、長年の課題でした。pGen-SHM plotはレパトアを用いて免疫を評価する重要な指標になると考えています。

研究の背景

同種造血幹細胞移植では、患者さんが過去のワクチン接種や感染で獲得した免疫が大きく低下、あるいは失われます。そのため移植後は重症感染症のリスクが高く、免疫がどこまで回復したかを把握することは、感染予防や再ワクチン接種を考える上で重要です。特に抗体を中心とする液性免疫の回復は、免疫能の十分な再構築を意味し、より広い免疫系の回復を反映すると考えられています。
しかし、現在の評価は主に免疫細胞数などに依存しており、病原体へ応答できる多様なB細胞が機能的に成熟しているかを十分に表すことは困難です。B細胞が持つBCR配列の集合である「BCRレパトア」には、B細胞が生まれ、抗原に出会い、成熟してきた過程が刻まれています。研究グループは、この情報を用いて移植後の液性免疫再構築を可視化できるのではないかと考えました。

研究の内容



図1 pGen-SHM plotについてのイラスト及び、健常成人12名の分布 

1.BCRの「生成」と「成熟」を2つの軸に統合

BCRレパトアの多様性は、主に2つの過程から生まれます。第一は、V(D)J再構成により多様なBCR配列を作る過程です。研究グループは、あるCDR3アミノ酸配列がこの再構成で生じる確率をpGenとして計算しました。第二は、抗原刺激後にBCR遺伝子へ変異が蓄積し、よりよく抗原へ結合するB細胞が選ばれる親和性成熟です。その程度を体細胞超変異(SHM)率で表しました。pGen-SHM plotは、各BCR配列をこの2軸上に置き、カーネル密度推定によりレパトア全体の分布を色の濃淡で示したものです(図1)。
我々は、成熟前のレパトアでは比較的生じやすい配列が多く、SHMも少ないため「pGen高値・SHM低値」に偏り、抗原経験を重ねて成熟すると、選択された生じにくい配列とSHMの蓄積が増え、「pGen低値・SHM高値」へ移行すると仮説を立てました(図1)。

2.臍帯血移植・骨髄移植を約2年間追跡

神戸大学医学部附属病院で臍帯血移植を受けた6例(21検体、移植後67~662日)と骨髄移植を受けた6例(14検体、移植後67~628日)について、末梢血のBCRレパトアをpGen-SHM plotで経時的に解析しました。pGen-SHM plotでは、臍帯血移植後早期はpGen高値・SHM低値へ分布が集中していましたが、約2年間を通じてpGen低値・SHM高値へ連続的に移行し、健常成人の範囲へ近づきました(図2A)。
0~15歳の健常者公開データでも、年齢とともに同じ方向への変化がみられました(図2B)。この一致は、pGen-SHM plotがBCRレパトア成熟を反映する良い指標であることを支持します。尚、従来の多様性指数は、いずれの移植群でも移植後日数に伴う明瞭な変化を示しませんでした。

図2 pGen-SHM plotが捉えたBCRレパトア成熟の全体像(論文Figure 3)A:臍帯血移植後の連続的な成熟。B:0~15歳の健常者にみられた類似の年齢変化。C:骨髄移植後早期の2集団と、その後の変化を示します。
出典:Funakoshi et al., Blood Immunology & Cellular Therapy (2026), Figure 3を転載。

3.骨髄移植後早期に、由来の異なる可能性がある2集団を識別

骨髄移植群ではpGen-SHM plotでは、移植後67~149日の早期にpGen高値・SHM低値とpGen低値・SHM高値の2集団が明瞭に分離しました(図2 C、図3A)。後者は約6か月以内に消失し、前者は臍帯血移植後と同様に成熟方向へ移動する傾向が見られました(図2 C)。
早期3検体を詳しく調べると、pGen高値・SHM低値領域はIgG1が多く、pGen低値・SHM高値領域はIgG2が多い傾向を示しました(図3A、B)。pGen高値・SHM低値集団は造血幹細胞から新たに生まれ成熟中のB細胞、pGen低値・SHM高値集団は骨髄移植片に含まれていた成熟B細胞を表す可能性が示されました。

図3 骨髄移植後早期に識別された2つの集団(論文Figure 4A, B)A:移植後180日以内の3検体で、pGen低値・SHM高値領域とpGen高値・SHM低値領域を分けて解析しました。B:IgGサブクラス分布。pGen高値・SHM低値領域ではIgG1、pGen低値・SHM高値領域ではIgG2が相対的に多く、2領域が異なる生物学的集団を表すという解釈を支持しました。
出典:Funakoshi et al., Blood Immunology & Cellular Therapy (2026), Figure 4を抜粋。

今後の展開

pGen-SHM plotは、従来の単一指標では見えにくかったBCRレパトア成熟の連続性と、同一検体内に共存する異なる集団を同時に捉えました。今後、次の検証を進めることで、移植後の液性免疫再構築を評価する実用的なバイオマーカーへ発展させることを目指します。
より多くの患者を前向きに追跡し、前処置、免疫抑制療法、移植片対宿主病(GVHD)、ステロイド、B細胞除去療法などの影響を検証すること
フローサイトメトリー、細胞分取、シングルセル解析を組み合わせ、プロット上の各集団の細胞由来と機能を直接確認すること
感染症発症、ワクチン応答、抗体価などの臨床情報と関連づけ、感染防御能をどこまで予測できるかを評価すること

十分な臨床検証を経た将来には、造血幹細胞移植後評価にとどまらず、ワクチン接種、感染症、がん免疫応答や自己免疫性疾患など様々な病態に対する免疫反応を評価するための検査系となることが期待されます。

用語解説

※1 生成確率(probability of generation: pGen)
あるBCRのCDR3アミノ酸配列がV(D)J再構成によって自然に生じる確率の推定値です。本研究ではOLGAを用いて計算しました。
※2 体細胞超変異(somatic hypermutation: SHM)
抗原刺激後、免疫グロブリン遺伝子の可変領域へ高頻度に生じる変異です。高親和性B細胞が選ばれる親和性成熟に重要で、本研究では参照V遺伝子からの変異率として評価しました。
※3 同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)
白血病などの治療として、ドナー由来の造血幹細胞を移植する治療です。本研究では臍帯血移植と骨髄移植を解析しました。
※4 B細胞受容体(BCR)レパトア
一人の体内に存在する多様なBCR配列の集合です。BCRは抗体と同じ抗原認識部位を持ち、レパトアにはB細胞の生成・選択・成熟の履歴が反映されます。
※5 pGen-SHM plot
各BCR配列のpGenとSHM率を2軸に配置し、カーネル密度推定でレパトア全体の分布を可視化する本研究の新しい解析法です。
※6 臍帯血移植(CBT)と骨髄移植(BMT)
CBTは臍帯血中、BMTはドナー骨髄中の造血幹細胞を用います。骨髄移植片には臍帯血より多くの成熟免疫細胞が含まれるため、移植後早期の免疫再構築様式が異なる可能性があります。

謝辞

本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JP24K11560)、日本医療研究開発機構(AMED、JP25ym0126805)の支援を受けて実施されました。

論文情報

タイトル

"B-cell repertoire maturation as a biomarker for immune reconstitution after hematopoietic stem cell transplantation"
邦題(参考):造血幹細胞移植後の免疫再構築バイオマーカーとしてのB細胞レパトア成熟

DOI

10.1016/j.bict.2026.100080

著者

Yohei Funakoshi, Kimikazu Yakushijin, Sakuya Matsumoto, Goh Ohji, Takaji Matsutani, Hidetomo Takakura, Yuri Okazoe-Hirakawa, Rina Sakai, Yumiko Inui, Taiji Koyama, Yoshiaki Nagatani, Keiji Kurata, Shiro Kimbara, Shinichiro Kawamoto, Naomi Kiyota, Hironobu Minami

掲載誌

Blood Immunology & Cellular Therapy, Article 100080(Original Article)

問い合わせ先

神戸大学企画部広報課
E-Mail:ppr-kouhoushitsu[at]office.kobe-u.ac.jp(※ [at] を @ に変更してください)

研究者


船越 洋平
講師

医学系研究科


薬師神 公和
准教授

医学系研究科


南 博信
教授

医学系研究科


医学部附属病院
医学系研究科