[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

東京大学 研究Discovery Saga
2026年10月1日

染色体を正しく分けるための「目印」となる構造を可視化

――ヒト細胞内で形成されたCENP-Aヌクレオソームを可視化――

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
染色体上のセントロメアが作られ、維持される仕組みの理解が進み、将来的には染色体分配異常に関わる疾患の解明にもつながることが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学化学生物学総合理工工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
情報基盤/ゲノムDNA/タンパク質複合体/塩基配列/紡錘体/電子線/ヒストン/電子顕微鏡/電子顕微鏡法/分解能/染色体構造/染色体分配/ヌクレオソーム/クロマチン構造/クライオ電子顕微鏡/セントロメア/高分解能/免疫沈降/オミクス/クロマチン/染色体/染色体不安定性/生体防御/微小管/分子機構/がん細胞/トランスクリプトミクス/細胞核/細胞分裂/生体分子/創薬/立体構造/立体構造解析/ゲノム/染色体異常
2026年9月29日 / 最終更新日時 :2026年9月25日 adiqb クロマチン構造機能研究分野 東京大学

発表のポイント

◆セントロメア機能を支える染色体構造であるCENP-Aヌクレオソームをヒト細胞から精製し、その構造を明らかにしました。
◆クライオ電子顕微鏡を用いた構造解析により、これまで試験管内で解明されてきたCENP-Aヌクレオソームの構造的な特徴が細胞内でも保持されていることを示しました。また、DNAシーケンス解析から、CENP-Aが過剰発現するとセントロメア以外の領域においてもCENP-Aヌクレオソームが形成されることを示しました。
◆本研究で得られた知見により、染色体上のセントロメアが作られ、維持される仕組みの理解が進み、将来的には染色体分配異常に関わる疾患の解明にもつながることが期待されます。

ヒト細胞から精製されたCENP-Aヌクレオソーム構造を解明

発表概要

ヒトのゲノムDNAは、細胞の核の中に染色体として収納されています。染色体は、ゲノムDNAがヒストンタンパク質に巻き付いてできる「ヌクレオソーム(注1)」が数多く連なって作られています。細胞が分裂する時には、染色体を新しい細胞へ正確に分配する必要があります。その時に重要な役割を果たすのが、染色体上にある「セントロメア(注2)」と呼ばれる領域です。セントロメアでは、通常のヒストンH3に代わってCENP-A(注3)という特別なヒストンがヌクレオソームに組み込まれ、「動原体(注4)」が作られる際の目印として働きます。しかし、細胞の中で実際に作られたCENP-Aヌクレオソームがどのような構造をしているのかは、十分に分かっていませんでした。
東京大学定量生命科学研究所の胡桃坂仁志教授、九州大学生体防御医学研究所の大川恭行教授らの共同研究グループは、CENP-Aを過剰発現させたヒト細胞からCENP-Aヌクレオソームを精製し、クライオ電子顕微鏡(注5)による構造解析を行いました。その結果、2分子のCENP-Aを含むヌクレオソームに加え、CENP-Aと通常型ヒストンH3を1分子ずつ含むヌクレオソームの立体構造を明らかにしました。本成果は、細胞内におけるCENP-Aヌクレオソームの多様性と、セントロメア形成の仕組みを理解するための新たな基盤となります。

発表内容

<研究の背景>
細胞分裂の際、複製された染色体を2つの娘細胞へ正確に分配するために、染色体上の「セントロメア」と呼ばれる領域が重要な役割を果たします。セントロメア上には動原体と呼ばれる構造が作られ、染色体を分けるための装置である紡錘体とつながります。セントロメアの染色体には、通常のヒストンH3の代わりにCENP-Aと呼ばれる特殊なヒストンを含むヌクレオソームが存在します。このCENP-Aヌクレオソームが目印となり、動原体が正しい場所に形成されると考えられています(図1)。
これまでCENP-Aヌクレオソームの構造解析は主に精製したタンパク質とDNAを試験管内で組み立てた試料を用いて行われてきました。一方、細胞内ではCENP-Aが実際にどのようなヌクレオソーム構造をとるのか、またどのような構成の違いがあるのかは十分に明らかになっていませんでした。

図1:染色体上のセントロメア領域の構造(左)と染色体分配の模式図(右)
<研究内容>
本研究では、CENP-Aを過剰発現させたヒト細胞からCENP-Aヌクレオソームを免疫沈降によって精製し、クライオ電子顕微鏡による立体構造解析とDNA塩基配列の解析を行いました。
クライオ電子顕微鏡解析により、2分子のCENP-Aを含むCENP-Aヌクレオソームに加え、CENP-Aと通常型ヒストンH3を1分子ずつ含むCENP-A/H3ヌクレオソームの立体構造を明らかにしました(図2)。この結果は、細胞内で形成されるCENP-Aヌクレオソームには、異なるヒストン組成を持つものが存在し得ることを示しています。また、得られた高分解能構造から、CENP-Aヌクレオソームでは通常のH3ヌクレオソームと比較してDNA末端がより柔軟な構造をとることや、CENP-Aに特有のRG loopがヌクレオソーム表面に形成されることを確認しました。これらは、これまで試験管内で再構成したCENP-Aヌクレオソームで知られていた特徴です。今回、それらの特徴が細胞内で形成されたヌクレオソームにも見られることが分かりました。

図2:本研究で明らかにした細胞由来CENP-AヌクレオソームのCryo-EM構造
 
さらに、シーケンス解析の結果、CENP-Aヌクレオソーム由来のDNAはセントロメア領域に加え、ゲノム全体にも広く分布していました。これは、CENP-Aが過剰発現すると本来のセントロメア以外の領域にもCENP-Aヌクレオソームが形成されることを示しています。CENP-Aの過剰発現はさまざまな種類のがんで報告されており、CENP-Aがセントロメア以外の染色体領域に異常に取り込まれることは、染色体の分配異常や染色体不安定性につながることが知られています。このことから、本研究で明らかにしたCENP-Aの異常な取り込みやヌクレオソーム構造は、がん細胞でみられる染色体異常の仕組みを理解するうえでも重要な手がかりになると考えられます。
今後、内在性CENP-Aやセントロメアに特異的な結合因子を利用した解析を進めることで、セントロメアに局在するCENP-Aヌクレオソームの構造と、動原体形成を導く分子機構の解明につながることが期待されます。

発表者・研究者等情報

東京大学
大学院理学系研究科
谷田 瑛昇 大学院生(博士課程)
定量生命科学研究所 先端定量生命科学研究部門
クロマチン構造機能研究分野
畠澤 卓 特任助教
滝沢 由政 准教授
胡桃坂 仁志 教授
九州大学
生体防御医学研究所 高深度オミクスサイエンスセンター
トランスクリプトミクス分野
大川 恭行 教授

研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)の科学研究費助成事業(科研費)(課題番号:JP23H05475、JP24H02319、JP24H02328、JP25K18410、JP25KJ1033、JP21H05292、JP23K27087、JP23H02394、JP24H02323、JP23H00372、JP22H04676、JP22K19275、JP26K01945)、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 ERATO(課題番号:JPMJER1901)、同 CREST(課題番号:JPMJCR24T3)、次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)「グリーントランスフォーメーション(GX)を先導する高度人材育成」(課題番号:JPMJSP2108)、日本医療研究開発機構(AMED)の生命科学・創薬研究支援基盤事業(BINDS)(課題番号:JP25ama121002、JP25ama121009、JP22ama121017j0001)、医療分野国際科学技術共同研究開発推進事業(先端国際共同研究推進プログラム(ASPIRE))(課題番号:JP24jf0126008)、革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)(課題番号:JP23gm1810008)、公益財団法人アステラス病態代謝研究会、公益財団法人コーセーコスメトロジー研究財団(現:公益財団法人コーセー小林財団)、公益財団法人中谷財団、文部科学省の共同利用・共同研究システム形成事業~学際領域展開ハブ形成プログラム~(課題番号:JPMXP1323015486)、高深度オミクス医学研究拠点整備事業、九州大学情報基盤研究開発センター附属汎オミクス計測・計算科学センター、九州大学生体防御医学研究所、九州大学情報基盤研究開発センター、および九州大学オートノマス医学研究センターの支援により実施されました。

用語解説

(注1)ヌクレオソーム
DNAを細胞核内に収納するための基本構造単位。ヒストンH2A、H2B、H3、H4がそれぞれ2分子ずつ集まって形成するヒストン八量体の周囲に、約147塩基対のDNAが巻き付いて形成される。多数のヌクレオソームが連なることでクロマチンが構成される。
(注2)セントロメア
染色体上に存在する、細胞分裂時の染色体分配に重要な領域。セントロメア上には動原体と呼ばれるタンパク質複合体が形成され、紡錘体の微小管と結合することで、複製された染色体を2つの娘細胞へ正確に分配する役割を担う。
(注3)CENP-A
セントロメアに特徴的に存在するヒストンH3のバリアント(類似タンパク質)。通常のヌクレオソームには、ヒストンH2A、H2B、H3、H4がそれぞれ2分子ずつ含まれ、これらにDNAが巻き付いている。一方、セントロメアでは、H3の代わりにCENP-Aを含む特殊なヌクレオソームが形成される。CENP-Aを含むヌクレオソームはセントロメアの目印として機能し、動原体形成の基盤となる。
(注4)動原体
細胞分裂の際に、セントロメア上に形成されるタンパク質複合体。染色体と、染色体を引き分ける紡錘体の微小管をつなぐ役割を担い、複製された染色体を2つの娘細胞へ正確に分配するために重要である。
(注5)クライオ電子顕微鏡
タンパク質などの生体分子を急速凍結し、電子線を用いて観察する電子顕微鏡法。多数の分子像をコンピューター上で統合することで、生体分子の立体構造を高い分解能で解析することができる。

アイキャッチ画像



雑誌名等

雑誌名:Communications Biology

題 名:Cryo-EM structures of CENP-A nucleosomes isolated from human cells

著者名:Eisho Tanida (谷田瑛昇), Suguru Hatazawa (畠澤卓), Takumi Oishi(大石匠美), Yuki Kobayashi(小林由紀), Mitsuo Ogasawara(小笠原光雄), Marta A. Jaskiewicz, Akihito Harada (原田哲仁), Takeru Fujii (藤井健), Yasuyuki Ohkawa (大川恭行), Yoshimasa Takizawa (滝沢由政), Hitoshi Kurumizaka (胡桃坂仁志)

DOI: 10.1038/s42003-026-10946-x

問い合わせ先

<研究内容について>
東京大学定量生命科学研究所
教授 胡桃坂 仁志(くるみざか ひとし)
Tel:03-5841-1467 E-mail:kurumizaka @ iqb.u-tokyo.ac.jp

<機関窓口>
東京大学定量生命科学研究所 総務チーム
Tel:03-5841-7813 E-mail:soumu @ iqb.u-tokyo.ac.jp