ヒト骨格系進化に関わる「シス制御変異アトラス」を構築
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | ヒト特有の骨格形態がどのように進化したのかを理解する手がかりとなるだけでなく、ヒト特有の骨格系疾患の解明にもつながることが期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
September 24, 2026
概要
ヒトは⼤型の脳や⼆⾜歩⾏に適した⾻格系など、様々な形態的特徴を持っています。このような特徴がどのような遺伝的要因によって獲得されたのかは、依然として明らかとなっていません。ヒトとチンパンジーのゲノム1は98%相同であり、残りのたった2%の中に両者を分ける重要な変異が含まれているにも関わらず、その⼤部分は未発⾒のまま埋もれています。京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(WPI-ASHBi)井上詞貴 特定准教授、Yizhi Yan同特定研究員(兼:マギル大学博士課程学生)、ワイツマン科学研究所David Gokhman主任研究者、Nadav Mishol同修士課程学生らの研究グループは、2つのユニークな実験技術、大規模並列レポーター解析法(MPRA)2およびヒト−ゴリラ融合細胞3を用いることで、ヒト骨格系の進化に関わる遺伝子発現制御機能を網羅した『シス制御変異4アトラス』を世界で初めて構築しました。これにより、軟骨組織の維持や細胞シグナル調節に関わるグリコサミノグリカン(ムコ多糖)5が、ヒト進化の過程で減少していることを見出しました。この発見は、ヒト特有の骨格形態がどのように進化したのかを理解する手がかりとなるだけでなく、ヒト特有の骨格系疾患の解明にもつながることが期待されます。
本研究成果は、2026年9月23日午後4時(グリニッジ標準時、日本時間9月24日午前0時)にNature誌にオンライン掲載されました。
プレスリリース全文は、サイドバーPDFにてご覧ください。
用語解説
ゲノム:生物がもつ遺伝情報全体のこと。ヒトでは約30億塩基対のDNAからなり、体の形や働きをつくるための情報がすべて含まれています。↩︎大規模並列レポーター解析法(MPRA, Massively Parallel Reporter Assay):多数のプロモーターやエンハンサー配列について、遺伝子発現を調節する働きを一度に調べる実験手法。プロモーターやエンハンサーに繋げたランダム15塩基対配列(バーコードと呼ばれる)が細胞内でどれくらい発現するかを計数することで、その活性を定量します。↩︎
融合細胞:異なる細胞の細胞膜を化学的に融合させて作製します。それぞれ2本の染色体が合わさって4倍体となりますが、正常に増殖分化することを確認します。本研究では、ヒトとゴリラの染色体が同じ細胞環境を共有するため、両者の遺伝子発現を平等に比較できます。↩︎
シス制御変異:遺伝子そのものではなく、遺伝子の発現量や発現パターンを変化させる変異のこと。プロモーターやエンハンサーなど、遺伝子の働きを調節するDNA領域にしばしば生じます。↩︎
グリコサミノグリカン(GAG):ムコ多糖とも呼ばれる糖鎖の一種。軟骨細胞や神経細胞の周囲にある細胞外基質の主要な成分の一つで、組織の構造維持、弾力性、水分保持、細胞間の情報伝達などに関わります。↩︎
書誌情報
Yan, Y.*, Mishol, N.*, Lange, K., Zhang, Z., Bodek, G., Kigel, A., Priel, N., Egyes, N., Ronen, O., Nini, I., Rotenstreich, L., Philosoph, A., Martinez, S., Beltramone, S., Tsujikawa, R., Rozenblatt, A., Wange, L.E., Torralvo, M., Hirsh, G., Elboim, Y., Viukov, S., Korenfeld, I., Kandadai, M.D., Cluzeau, O., Nissim-Rafinia, M., Meshorer, E., Hanna, J.H., Vereecke, E., Marom, A., Kuhlwilm, M., Bourque, G., Marques-Bonet, T., Fishilevich, S., Inoue, F.^, and Gokhman, D.^. The Gene Regulatory Evolution of the Human Skeleton.Nature. DOI:10.1038/s41586-026-11053-x* equal contribution ^ co-corresponding authors
京都大学 研究