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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年9月14日

アデノウイルスベクターを用いることでRNA切断の「巻き添え」を抑制

より安全な遺伝子発現制御技術の開発に向けて

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
CRISPR-Cas13 systemを用いたRNA治療の安全性向上が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
複合領域総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
先端技術/CRISPR-Cas/プラスミド/CRISPR/ベクター/治療標的/臨床応用/RNA/アデノウイルス/アデノウイルスベクター/ウイルスベクター/マウス/遺伝子治療/遺伝子導入/遺伝子発現制御/創薬/培養細胞/発現制御/ウイルス/コレステロール/遺伝子/遺伝子発現
2026-9-7●生命科学・医学系薬学研究科教授水口 裕之

発表のポイント

RNAを狙って切断するCRISPR-Cas13 systemについて、アデノウイルス(Ad)ベクターを用いることで「巻き添え」となるRNA切断を抑えられることを発見
CRISPR-Cas13 systemは狙った標的RNAを精密に切断する能力がある一方で、collateral activityという、活性化すると標的以外のRNAも巻き込んで切断することが課題の一つであった
プラスミド導入では標的以外のRNAも減少したのに対し、Adベクターを用いてCasRxを送達・発現させると、標的RNAを十分に減少させながら非標的RNAへの影響(collateral activity)を抑制できることを細胞実験で確認
CRISPR-Cas13 systemを用いたRNA治療の安全性向上が期待される

発表概要

大阪大学大学院薬学研究科の水口裕之教授らの研究グループは、RNAを狙って切断するCRISPR-Cas13 systemをAdベクターにより送達することで標的RNAの切断効率を保ちながらcollateral activityを大幅に低減させることに成功しました。
CRISPR-Cas13 systemは、ガイドRNAとCas13タンパク質を組み合わせることで、狙ったRNAを切断し、特定の遺伝子の働きを抑えることができる技術です。ガイドRNAの配列を変更することでさまざまな遺伝子を標的にできることから、RNAを標的とする新たな治療技術として期待されています。一方で、Cas13が標的RNAを認識した際に、周囲のRNAまで非特異的に切断するcollateral activityが生じ、予期せぬ遺伝子発現の変化や細胞への影響が生じることから、その安全性が懸念されていました(図1)。
今回、研究グループはCas13の中でも高いcollateral activityを持つCasRx(高い標的RNA の切断活性も持つ)を、Adベクターによりプラスミド導入と比べて低いコピー数で均一に導入・発現させることで、非標的遺伝子の発現への影響を抑えながら精密な遺伝子ノックダウンが可能なことを示しました(図1)。さらに、CasRx発現Adベクターをマウスに投与することで、高コレステロール血症の治療標的であるPcsk9を、明らかな肝毒性を示すことなくノックダウンすることに成功し、血中コレステロール値を低下させました(図1)。
本研究により、CRISPR-Cas13 systemをより安全に利用するための新たなアプローチとなることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「Molecular Therapy – Nucleic Acids」(オンライン)に、9月8日(火) (日本時間)に公開されました。



図1. 本研究の概要

研究の背景

CRISPR-Cas13 systemは、ガイドRNAとCas13タンパク質を組み合わせることで、狙ったRNAを切断し、特定の遺伝子の働きを抑えることができる技術です。ガイドRNAの配列を変更することでさまざまな遺伝子を標的にできることから、RNAを標的とする新たな治療技術として期待されています。一方で、Cas13が標的RNAを認識した際に、周囲のRNAまで非特異的に切断するcollateral activityが生じることが報告されています。この作用によって予期せぬ遺伝子発現の変化や細胞への影響が生じる可能性があり、治療応用に向けて解決すべき課題となっています。
Adベクターは、高い遺伝子導入効率を示し、遺伝子治療や生命科学研究全般に広く利用されてきたウイルスベクターです。これまでCas13のcollateral activityは、主にCas13を発現するプラスミドを培養細胞に導入した実験系で検討されてきました。一方、collateral activityはCas13の発現量や標的RNA量などに影響されることが示唆されており、導入方法によってその程度が異なる可能性がありました。しかし、ウイルスベクターを用いたCas13遺伝子の送達など、治療応用を目的とした実験系においてcollateral activityがどの程度生じるかについては、十分に明らかになっていませんでした。そこで本研究では、CRISPR-Cas13 systemを搭載したAdベクターを作製し、培養細胞およびマウスを用いて、その遺伝子ノックダウン効果とcollateral activityを含む有効性・安全性について検討しました。

研究の内容

本研究ではAdベクターを用いてCas13の送達量を均一に低くコントロールすることで標的RNAの切断効率を保ちながらcollateral activityを大幅に低減させられることを示しました。さらに、臨床応用に向けたモデルとして高コレステロール血症の治療標的であるPcsk9 を標的にCasRx発現Adベクターをマウスに投与しました。その結果、明らかな肝毒性を示すことなくPcsk9をノックダウンすることに成功し、血中コレステロール値を低下させました。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果は、CRISPR-Cas13 systemのcollateral activityが、Cas13そのものの性質だけでなく、その導入方法によって制御できる可能性を示すものです。Adベクターを用いたCasRxの送達により、ノックダウン効果を維持しながら非標的RNAへの影響を抑えることで、CRISPR-Cas13 systemをより安全に利用するための新たなアプローチとなることが期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年9月8日(火) (日本時間)に米国科学誌「Molecular Therapy – Nucleic Acids」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“Adenovirus vector-mediated delivery of the CRISPR/CasRx system enables gene knockdown with suppressed collateral activity”
著者名:Yuki Osakada, Sota Kidawara, Eiko Sakai, Akira Asayama, Fuminori Sakurai, Kahori Shimizu and Hiroyuki Mizuguchi
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2162253126002283?via%3Dih
DOI:https://doi.org/10.1016/j.omtn.2026.103057
なお、本研究は、独立行政法人日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)(23H00552)、および国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED) 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)(JP25ama121052)の支援を受けて行われました。