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山口大学 研究Discovery Saga
2026年9月10日

ALS治療薬でアルツハイマー病の記憶障害を改善!

―認知症モデル動物で、脳内グリア細胞の活性化による新治療メカニズムを発見―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
すでにヒトでの安全性が確認されている飲み薬であるため、アルツハイマー病治療への早期応用や新たな創薬への貢献が期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
情報学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
人工知能(AI)/マイクロ/モデリング/接合部/超解像/シナプス/スパイン/神経生理学/超解像顕微鏡/細胞応答/組織化学/記憶・学習/グリア細胞/組織化/臨床応用/運動機能/筋萎縮/リモデリング/アストロサイト/アルツハイマー病/オリゴマー/グリア/マイクログリア/モデル動物/樹状突起/神経細胞/創薬/免疫応答/海馬/筋萎縮性側索硬化症 /生理学/認知症/免疫組織化学

 

発表のポイント

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬「リルゾール」が、アルツハイマー病(AD)モデル動物の記憶障害を大幅に改善することを発見しました。
脳内の掃除役細胞(グリア細胞※1)を活性化させてアルツハイマー病の原因物質の除去を促し、記憶をつなぐ接合部(シナプス)を守る新しい仕組みを解明しました。
すでにヒトでの安全性が確認されている飲み薬であるため、アルツハイマー病治療への早期応用や新たな創薬への貢献が期待されます。

研究概要

山口大学大学院医学系研究科 神経生理学講座の美津島 大 教授、Min-Kaung-Wint-Mon 助教、山陽小野田市立山口東京理科大学の木村 良一 准教授らの研究グループは、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬「リルゾール」が、アルツハイマー型認知症における主要因子であるAβ1-42オリゴマー※2によって引き起こされる記憶障害を改善する分子・細胞メカニズムを明らかにしました。
 本研究成果は2026年8月25日7時(UTC)(日本時間8月25日16時)に、米国科学雑誌「Journal of Neuroinflammation 」(Impact factor 11.5)に公開されました。

研究の背景

アルツハイマー病(AD)では、脳内に蓄積したAβ1-42オリゴマーが神経細胞の過剰な興奮を引き起こし、記憶の形成に必要なシナプス脳回路の柔軟性の低下や記憶障害をもたらすことが知られています。そのため、神経の過剰興奮を抑えることがADの有望な治療戦略として注目されています。
リルゾールは、米国FDA(食品医薬品局)で承認されているALSの治療薬であり、神経の過剰興奮を抑制する作用を持っています。研究グループは、これまで、リルゾールがAβ1-42オリゴマーによる神経細胞の過剰興奮を抑制することを細胞レベルで解明してきました。今回の研究では、モデル動物(ラット)を用いて、リルゾールが実際の記憶障害を回復させることができるか、またその際に脳内でどのような細胞応答が起きているのかを個体・細胞レベルで詳細に検証しました。

研究の内容

研究グループは、ラットの海馬(記憶をつかさどる脳部位)にAβ1-42オリゴマーを注入した認知症モデルを作製し、リルゾールを7日間連日投与した後の行動変化および脳組織の精密解析を行いました。また、マルチプレックス免疫組織化学法と超解像顕微鏡、さらにAI技術による3次元再構築解析を組み合わせて細胞内の変化を詳細に可視化・定量化しました。

研究の成果

1.記憶・学習能力の回復
 リルゾールを投与されたラットは、運動機能や不安様行動、痛覚感受性に影響を受けることなく、Aβ1-42オリゴマーによって低下していた海馬依存性の記憶・学習機能が有意に改善しました。
2.グリア細胞によるAβ1-42オリゴマー除去の促進
 脳内の「掃除役」であるグリア細胞が強力に動員され、有害なAβ1-42オリゴマーを取り込んで分解・除去する作用が促進されていることが明らかになりました。
3.記憶の接合部(スパイン)の保護
 グリア細胞の機能化に伴い、Aβ1-42オリゴマーによって引き起こされるスパイン(樹状突起棘)※3の消失や病的なシナプスの刈り込みが抑えられ、記憶ネットワークの構造と多様性が正常に維持されました。


図:Aβ1-42オリゴマーによる海馬の機能障害と、リルゾールによる保護・改善効果の仕組み(模式図)

今後の展望

 本研究により、リルゾールが脳内のグリア細胞を活発化させてAβ1-42オリゴマーを除去し、海馬依存性の多様な学習機能を回復できることを明らかにしました。
 これらの知見は、アルツハイマー型認知症の治療介入が必要な段階において、グリア細胞の賦活と協調的リモデリングが病態制御と改善に重要であることを示します。
 また、リルゾールは既に臨床現場で経口投与(飲み薬)されている安全性の確認された薬剤であるため、ヒトのアルツハイマー病治療への早期の臨床応用(ドラッグリポジショニング)が期待されます。また、アストロサイトやマイクログリアを標的とした新たな創薬ポイントの解明に向け、更なる研究の展開を目指します。

用語の説明

※1.グリア細胞:
脳内で神経細胞の周囲に存在し、環境維持や免疫応答、老廃物の分解・掃除を担う細胞群。
※2.Aβ1-42オリゴマー:
アルツハイマー病の患者の脳内に蓄積するタンパク質の異常な塊。
※3.スパイン(樹状突起棘):
神経細胞の樹状突起にある小さな突起構造で、他の神経細胞からの情報を受け取るシナプスの接合部。

論文タイトルと著者

タイトル:Riluzole shifts glial responses to protect synapses and memory in Aβ oligomer–treated rats
(リルゾールはグリア細胞の応答を変化させ、Aβオリゴマー投与ラットのシナプスと記憶を保護する)
著者:Min-Kaung-Wint-Mon, Hiroyuki Kida, Ryoichi Kimura, Dai Mitsushima
掲載誌:Journal of Neuroinflammation
掲載日:2026年8月25日午前7時(UTC)
DOI:10.1186/s12974-026-03972-3

 

問い合わせ先

<研究に関すること>
山口大学大学院医学系研究科神経生理学講座
教授 美津島 大(ミツシマ ダイ)
TEL:0836-22-2210
E-mail:mitsu@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)

<報道に関すること>
山口大学医学部総務課広報・国際係
TEL:0836-22-2009
E-mail:me268@(アドレス@以下→yamaguchi-u.ac.jp)