放射線で腫瘍が増えやすくなる遺伝的要因を解明
― DNA修復に関わる遺伝子の変異が発がんリスクに影響―
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 放射線による発がんの仕組みを理解する上で重要な手がかりになります。また、DNA修復異常症における「がんになりやすさ」を評価する新しいモデルとしても役立つと期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
がん研究/核形成/センサー/運動失調/小脳/ATM/CRISPR/DNA修復/染色体/放射線感受性/放射線照射/毛細血管/眼球運動/ゲノム編集/モデルマウス/悪性腫瘍/発がん/マウス/小腸/ゲノム/遺伝子/遺伝子変異/放射線
発表のポイント
放射線で腫瘍が増えやすくなる遺伝的背景をマウスで解明しました。DNA修復に関わるMRE11遺伝子(※1)に特定の変異があると、放射線を受けた後に腸の腫瘍が特に増えることが分かりました。
腫瘍ができやすいモデルマウスを使うことで、まれなDNA修復異常症の発がんリスクを評価できる可能性を示しました。
発表概要
広島大学原爆放射線医科学研究所の阿久津シルビア夏子助教、松村梨沙大学院生、浅野孝基准教授、松浦伸也名誉教授、笹谷めぐみ教授、吉永信治教授、山口大学大学院医学系研究科の宮本達雄教授らの研究グループは、ゲノム編集(※2)を用いて、毛細血管拡張性運動失調症様疾患(AT-like disorder; ATLD)(※3)の患者さんで見つかったMRE11遺伝子の変異を持つモデルマウスを作製しました。このモデルマウスを調べたところ、特定の遺伝的条件のもとで放射線を受けると、小腸にできる腫瘍の数が大きく増えることが分かりました。本研究成果は、2026年8月14日に英国の科学雑誌Scientific Reportsのオンライン版に掲載されました。
発表論文
論文名:“ATLD-derivedMRE11 variant enhances radiation-induced intestinal tumorigenesis inApcMin/+ mice”著者名:Risa Matsumura, Silvia Natsuko Akutsu, Megumi Sasatani, Guanyu Zhou, Tiancheng Liu, Ai Fukushima, Tetsuo Ozawa, Yu Kobayashi, Tatsuo Miyamoto, Shinji Yoshinaga, Satoshi Okada, Takaki Asano, Shinya Matsuura
DOI番号:https://doi.org/10.1038/s41598-026-66205-w
研究の背景
DNAが傷ついたときに修復する仕組みがうまく働かない病気では、放射線に弱く、その多くががんになりやすい体質になることがあります。代表的な病気として、ATM遺伝子が原因の「毛細血管拡張性運動失調症(AT)」(※4)が知られています。一方、「毛細血管拡張性運動失調症様疾患(ATLD)」は、MRE11遺伝子変異により発症する稀な常染色体潜性疾患です。患者はATに類似した小脳失調、眼球運動失行、ジストニアなどを呈する一方で、易発がん性を示さない点がATとは異なります。ATLD患者の臨床的多様性は、MRE11遺伝子変異の種類に起因すると考えられ、これまでに39名の症例から約20種類の異なる変異が報告されています。MRE11変異を伴うATLDでは放射線感受性が亢進しているが、これらの変異が発がん素因に及ぼす潜在的影響については十分に解明されていません。そこで研究グループは、ATLDの患者で見つかったMRE11遺伝子の変異(A47V)をマウスに導入し、放射線を受けたときに腫瘍がどれくらい増えるかを調べました。研究成果の内容
ATLDの2歳男児では、MRE11遺伝子にA47V(c.140C>T)ミスセンス変異と、c.658A>Cスプライス変異の2つの変化が見つかりました(図1)。A47V を持つマウスを作り、ApcMin/+ マウス(※5)と交配させて、2Gyの放射線を照射しました。その後、生後24週齢で、小腸を観察し、腫瘍の数を数えました。・ 放射線を当てない場合でも、A47V が2つ揃ったマウス(ホモ接合体)は、腫瘍が多い傾向がありました(図2)。
・ 放射線を当てると、どの遺伝子型のマウスでも腫瘍が増えましたが、A47Vが2つ揃ったマウスでは特に大きく増えることが分かりました。
これらの結果から、A47Vが2つ揃うと、放射線で腫瘍が増えやすい体質になる可能性が示されました。
今後の展望
今回の成果は、放射線による発がんの仕組みを理解する上で重要な手がかりになります。また、DNA修復異常症における「がんになりやすさ」を評価する新しいモデルとしても役立つと期待されます。参考資料
図1 ATLD患者で見つかったMRE11遺伝子変異とモデルマウスA47Vが2つ揃ったマウス(ホモ接合体;A47VKI/KI)は、微小核形成法で放射線に弱い体質(放射線高感受性)を示した。

図2 遺伝子型の違いによる腸管腫瘍数の比較
A47Vが2つ揃ったマウス(ホモ接合体;A47VKI/KI)は、放射線照射後に腫瘍が特に大きく増えた。

用語解説
(※1)MRE11遺伝子:DNAが傷ついたときに修復を始める「センサー」の役割を持つ遺伝子。
(※2) ゲノム編集:
CRISPR/Cas9などを使い、遺伝子を壊したり特定の変化を書き込んだりできる技術。
(※3) 毛細血管拡張性運動失調症様疾患(ATLD):
放射線に弱く、運動のふらつき(運動失調症)がでる稀な遺伝性の病気。
(※4) 毛細血管拡張性運動失調症(AT):
運動のふらつき(運動失調症)や毛細血管拡張が現れる遺伝性の病気。免疫が弱く感染 症を繰り返すほか、放射線に極めて弱く、悪性腫瘍のリスクが高い。
(※5)ApcMin/+マウス:
腸にポリープができやすいマウスで、放射線発がん研究に広く使われている。
報道発表資料(675.22 KB)
論文掲載ジャーナル (Scientific Reports)
広島大学研究者ガイドブック (AKUTSU SILVIA NATSUKO 助教)
問い合わせ先
(研究に関すること)広島大学原爆放射線医科学研究所 助教 阿久津シルビア夏子
Tel: 082-257-5811
E-mail: silvia-akutsu*hiroshima-u.ac.jp
(*は半角@に置き換えてください)
掲載日 : 2026年08月27日
広島大学 研究