サステナビリティ重視で植物に気をつかうカモシカと短期的利益重視で食べつくすシカ
―社会の違いが生み出す採食行動の違い―
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
発表のポイント
富士山の高山帯に生息するニホンカモシカとニホンジカの採食行動を直接観察により5年間にわたり調べました。同種に対してなわばりを持ち、単独で同じ場所に長年とどまって生活するカモシカは、歩きながらつまみ食いをすることにより、植物にできるだけダメージを与えない食べ方をしていました。
反対に、なわばりを持たずに、群れで季節移動をするシカは、立ち止まって同じ植物を集中的に採食することにより、植物に大きなダメージを与える食べ方をしていました。
食物の持続可能性が生存と繁殖に重要なカモシカの社会と、持続可能性よりも短期的な利益が重要なシカの社会の違いを反映し、このような採食行動の違いが表れた可能性があります。
さらに、食物をめぐる種間競争において、採食スピードの速いシカは遅いカモシカに比べて優位であることが示唆されました。
本研究成果は、ポーランドの哺乳類学雑誌「Mammal Research」(8月18日付)オンライン版に掲載されました。
論文名:Social system and spatial behavior drive interspecific differences in foraging intensity and plant-level damage in sympatric ungulates
著者名:Hayato Takada*
URL:https://doi.org/10.1007/s13364-026-00889-3
研究体制
本研究は、JSPS科研費JP22K14909の助成を受けて、国立大学法人東京農工大学 農学部附属野生動物管理教育研究センターの髙田隼人特任准教授によって実施されました。
研究背景
大型の草食獣である有蹄類注1)の採食行動は、自身の生存や繁殖だけでなく、食べられる側である植物の生存や繁殖にも大きな影響を与えることが知られています。例えば、ある有蹄類による過度な採食は植物の多様性や量を減少させ、その結果、種間競争を通じて別の有蹄類の減少を引き起こすことがあります(2025年5月2日 本学プレスリリース)。これまで、多くの有蹄類を対象として採食行動の研究が行われてきましたが、採食行動の種間差については、ほとんど研究されてきませんでした。これは、同じ場所に生息する複数の有蹄類は、異なる植物を食べる場合が多く(2026年1月5日 本学プレスリリース)、定量的に採食行動を比較することが難しいためです。そのため、群れサイズやなわばり注2)の有無といった社会システムや、定住性注3)や季節移動注4)といった空間行動の違いが、採食行動にどのような影響を与えるのかについては、ほとんど知見がありませんでした。
なわばりを持たず、群れで生活する有蹄類では、複数の個体が同じ採食場所を共有するため、他個体よりも早く採食する個体が生存や繁殖において有利になると考えられます。一方、単独でなわばりを持つ有蹄類では、採食場所を他個体から物理的に防衛しているため、急いで採食する必要がないかもしれません。さらに、季節移動をする移動性の高い有蹄類では、ある場所の食物が枯渇しても別の場所へ移動することが容易です。一方、何年も同じ場所にとどまって生活する定住性の有蹄類では、食物を枯渇させてしまうことが、自身の生存や繁殖に不利に働くと考えられます。つまり、社会システムや空間行動の異なる種間で採食行動を比較することで、これらの仮説を検討できると考えました。
富士山の高山帯には、単独性・なわばり性・定住性を示すニホンカモシカ(以下、カモシカ)と、群居性注5)・非なわばり性・季節移動を示すニホンジカ(以下、シカ)が同じ場所に生息しています(図1)。さらに、富士山高山帯は植物の多様性や量が乏しい環境であるため、両種が同じ植物(オンタデ)を食べることが知られています(2023年4月11日 本学プレスリリース)。そこで本研究では、異なる社会システムと空間行動を持ち、同じ植物を採食するカモシカとシカを対象に、両種の採食行動を比較しました
研究成果
調査は、富士山北麓の高山帯(面積:約12.2 km²、標高:2,200~3,200 m)で実施しました(図2)。調査地域は見通しが非常によく、遠くからでもカモシカとシカの行動を観察することが容易でした。さらに、両種の主食であるオンタデは、個体間で間隔を空けて生育するため、1個体のオンタデに対して両種がどのくらい採食するのかを評価することも容易でした(図1、2)。2018年から2022年の夏季(6~9月:高山帯にオンタデが生育する時期)に合計73日間、調査地域を踏査し、発見したカモシカとシカの採食行動を記録しました。具体的には、両種の採食スピード(1分間当たりに植物をはむ回数:バイト)と移動スピード(1分間当たりに歩いた歩数:ステップ)、植物に与えるダメージ(植物1個体当たりにはむ回数)を評価しました。また、植物に与えるダメージを視覚的に把握するため、両種が採食した直後の植物個体を撮影しました。
その結果、両種の採食行動を合計120回観察しました(シカ50回、カモシカ70回)。カモシカの採食スピード(平均6.0バイト/分)は、シカ(平均22.5バイト/分)の3分の1以下でした(図3)。一方、カモシカの移動スピード(平均27.8ステップ/分)は、シカ(平均5.4ステップ/分)の5倍以上でした(図3)。また、カモシカが採食によって植物に与えるダメージ(平均3.7バイト/植物個体)は、シカ(平均16.8バイト/植物個体)の4分の1以下でした(図3)。さらに、シカに採食された直後の植物個体では、葉だけでなく花も除去されていたのに対し、カモシカに採食された直後の植物個体では、多くの器官が残されていました(図4)。つまり、カモシカは歩きながら多くの植物個体を少しずつ採食することで、個々の植物個体へのダメージを抑えていたのに対し、シカは立ち止まって同じ植物個体を集中的に採食することで、植物個体へのダメージを大きくする一方、採食スピードを高めていることが示されました。
この結果は、両種の社会システムや空間行動の違いが、採食行動に影響した可能性を示しています。すなわち、定住性・なわばり性のカモシカは、同じ場所の植物を利用し続けることを前提として、個々の植物への影響を抑えるように採食しているのに対し、季節移動・群居性のシカは、他個体との競争の中で、より速く効率的に採食することを優先している可能性があります。
さらに、こうした採食行動の違いは、両種が植物に与える影響の違いや、食物をめぐる種間競争における優劣にも関係している可能性があります。例えば、これまでの研究から、カモシカは高密度であっても植物の種構成や量を大きく変化させない一方、シカは低密度であっても植物の種構成や量を改変することが報告されています。このような違いの一因として、今回明らかになった採食行動の違いが考えられます。また、食物をめぐる種間競争においては、採食スピードの速いシカが、採食スピードの遅いカモシカに対して優位になる可能性があります。実際に、シカの増加に伴うカモシカの減少は各地で報告されており(2023年6月30日、2023年7月12日、2025年5月2日 本学プレスリリース)、今回明らかになった両種の採食行動の違いが、植物へのインパクトや両種の種間関係を理解するうえで重要な手がかりになると考えられます。
用語解説
注1)有蹄類:蹄を持つ動物群のこと。偶蹄目(牛や羊)と奇蹄目(馬やサイ)が含まれる。注2)なわばり:他の個体に対して防衛する場所・空間のこと
注3)定住性:動物が同じ場所に生活し続けること。
注4)季節移動:動物が季節に応じて生活する場所を移動させること。
注5)群居性:動物が群れをなす性質のこと。




問い合わせ先
研究に関する問い合わせ
東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センター特任准教授
髙田 隼人(たかだ はやと)
TEL:042-367-5826
E-mail:takadah(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
プレスリリース(PDF:1.4MB)
関連リンク
東京農工大学 髙田隼人特任准教授研究者プロフィール東京農工大学 髙田隼人特任准教授研究室WEBサイト
髙田隼人特任准教授が所属する 東京農工大学農学部地域生態システム学科
東京農工大学 研究