抗菌薬コリスチン使用禁止後のタイで耐性菌を検出
~多剤耐性菌の蔓延を防ぐための現地市場調査~
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
2026年8月20日
獣医学研究科
医学研究科
プレスリリース
発表者
大阪公立大学大学院獣医学研究科 山﨑 伸二教授、Sharda Prasad Awasthi(シャルダ プラサダ アワスティ)特任准教授、Ahmed Abououf(アハメド アブウフ)氏(研究当時:大学院生)、本学大学院医学研究科 金子 幸弘教授、タイ タマサート大学、エジプト国立動物衛生研究所発表概要
コリスチン※1は多剤耐性菌に対して使用される抗菌薬です。2018年以降、多くの国が家畜に対するコリスチンの使用を禁止しましたが、タイにおける使用状況は把握されていませんでした。タイのオープンマーケットでは小規模農場で生産された食肉が販売されているのに対し、スーパーマーケットでは大規模農場産の食肉が販売されています。本研究グループは2023年7月~9月に、タイのオープンマーケットとスーパーマーケットのそれぞれで販売されている鶏肉と豚肉から、プラスミド※2媒介性コリスチン耐性(mcr)遺伝子の検出を試みました。その結果、オープンマーケットで購入した食肉からmcr遺伝子が検出され、小規模農場では抗菌薬が適正に使用されていない可能性が示唆されました。本研究成果は、2026年7月6日に国際学術誌「Microbiology and Immunology」にオンライン掲載されました。

図 オープンマーケットとスーパーマーケットで購入した鶏肉と豚肉におけるコリスチン耐性(mcr)遺伝子の検出率
発表のポイント
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タイのオープンマーケットとスーパーマーケットのそれぞれで販売されている鶏肉と豚肉について、mcr遺伝子の検出を試みた。
小規模農場産の食肉を取り扱うオープンマーケットで購入した鶏肉の15.4%と豚肉の13.3%からmcr遺伝子が検出された。一方、大規模農場産の食肉を取り扱うスーパーマーケットで購入した鶏肉と豚肉からは検出されなかった(図)。
小規模農場では、抗菌薬が適正に使用されていない可能性が示された。
<研究者のコメント>
プラスミド媒介性のmcr遺伝子が見つかって以来、世界保健機関(WHO)の勧告に基づき、多くの国は畜産現場におけるコリスチンの使用を禁止しました。しかし今回、タイの食肉からコリスチン耐性菌が分離されたことを受け、抗菌薬の慎重な使用を再度呼びかける必要があると考えています。

Ahmed Abououf氏

Sharda Prasad Awasthi特任准教授
研究の背景
コリスチンは1950年代から使用されている抗菌薬で、副作用の問題から一時使用が制限されていました。その後、2010年代に多剤耐性菌感染症の増加が大きな問題となり、コリスチンが最後の切り札として再び使われるようになりました。一方で、2016年に中国でプラスミド媒介性コリスチン耐性(mcr)遺伝子が見つかり、コリスチンの使用を続けると耐性菌が蔓延する可能性があるため、世界に大きな衝撃を与えました。このような背景から、2017年に世界保健機関(WHO)が、成長促進や感染症予防の目的で家畜へコリスチンを使用しないよう勧告し、2018年以降、タイを含む多くの国で家畜に対するコリスチンの使用が禁止されました。しかし、タイにおける実際の使用状況は把握されていませんでした。研究の内容
本研究グループは2023年7月~9月に、タイのオープンマーケットで購入した鶏肉39検体と豚肉30検体、スーパーマーケットで購入した鶏肉64検体と豚肉19検体から、プラスミド媒介性mcr遺伝子の検出を試みました。その結果、スーパーマーケット由来の食肉からは検出されませんでしたが、オープンマーケット由来の食肉のうち、鶏肉6検体(15.4%)と豚肉4検体 (13.3%)からmcr遺伝子が検出され、分離した菌の多くは多剤耐性の大腸菌であることが分かりました。さらに、高病原性で基質拡張型βラクタマーゼ産生性※3のクレブシエラも2株確認されました。期待される効果・今後の展開
本研究結果から、大手企業が運営する大規模農場では抗菌薬が適正に使用されている一方で、小規模農場では抗菌薬が適正に使用されていない可能性が示されました。また、コリスチンを含む抗菌薬の適正な使用は、少なくともコリスチン耐性菌の減少に寄与していると考えられます。今回分離した菌が保持するコリスチン耐性プラスミドは、菌と菌が接合※4することにより伝播する可能性が高いため、コリスチンだけでなく、他の抗菌薬も適正に使用することが重要です。資金情報
本研究は、科学技術振興機構(JST) 次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2139 と大阪公立大学基盤研究費・教育費の支援を受けて実施しました。用語解説
※1 コリスチン:アミノ酸が複数連なったポリペプチド性で、細菌の細胞膜に傷害を与える抗菌薬。※2 プラスミド:細菌の染色体DNAとは別個に存在し、生命活動に必須でない遺伝子。多くの場合、薬剤耐性遺伝子や病原因子を保持する。
※3 基質拡張型βラクタマーゼ:遺伝子の変異に基づきペニシリンのみならずさまざまなβラクタム系抗菌薬を分解し無効化する酵素のこと。
※4 接合:菌と菌が接触することによって、プラスミドなどの遺伝因子を菌から菌に伝播させること。
掲載誌情報
【発表雑誌】Microbiology and Immunology【論文名】 Prevalence and Genomic Characterization ofmcr-Positive Enterobacteriaceae in Retail Meat in Thailand Following the Colistin Ban
【著者】Ahmed Abououf, Sharda Prasad Awasthi, Asmaa M. Elbastawesy, Noritoshi Hatanaka, Atsushi Hinenoya, Srinuan Somroop, Yukihiro Kaneko, Shinji Yamasaki
【掲載URL】https://doi.org/10.1111/1348-0421.70073
問い合わせ先
研究内容に関する問い合わせ先
大阪公立大学大学院獣医学研究科/大阪国際感染症研究センター教授 山﨑 伸二
TEL:072-463-5653
E-mail:yshinji[at]omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
報道に関する問い合わせ先
大阪公立大学 広報課担当:谷
TEL:06-6967-1834
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp
※[at]を@に変更してください。
該当するSDGs

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