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山形大学 研究Discovery Saga
2026年8月21日

イネ科植物の繁栄を支えた進化の起源を解明

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
本研究で得られたゲノム資源と進化メカニズムに関する知見は、将来的な穀物の収量向上やバイオ燃料生産に適した作物の開発を加速すると期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
数物系科学化学生物学工学総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
放射光/芳香族/アンモニア/タンパク質構造/高分子/芳香族化合物/遺伝情報/比較ゲノム解析/分子系統解析/遺伝子重複/環境適応/分子系統/持続可能/地球環境/再生可能資源/生産性/耐久性/バイオマテリアル/デンプン/トウモロコシ/生合成経路/輸送体/イネ/生態系/バイオマス/リグニン/系統解析/細胞壁/バイオエネルギー/バイオ燃料/生合成/生態学/比較ゲノム/アミノ酸配列/ゲノム情報/遺伝子工学/ゲノム解析/分子機構/アミノ酸置換/アミノ酸/グリア/バイオテクノロジー/立体構造/立体構造解析/ゲノム/遺伝子

掲載日:2026.08.21

発表のポイント

イネ科の姉妹にあたる4種のイネ目植物のゲノムを新らたに解読し、デンプンやリグニンの生合成にみられるイネ科特有の機能が進化した時期を解明。
比較ゲノム・生化学・タンパク質構造解析を統合し、新たなリグニン生合成経路を生み出した酵素の進化に関わる2つのアミノ酸変異を特定。
本研究で得られたゲノム資源と進化メカニズムの知見は、穀物の高収量化やバイオ燃料に適した作物開発を加速する。

詳細(リリースペーパー)についてはこちら

発表概要

山形大学農学部木村ゆり助教は、米国ウィスコンシン大学の前田宏教授らによる国際共同研究チームおよび米国エネルギー省共同ゲノム研究所(JGI)との共同研究により、イネ、コムギ、トウモロコシなど、人類のカロリー摂取量の50%以上を支えるイネ科植物が、どのようにして現在の高い生産性を獲得したのか、その進化の過程を分子レベルで解明しました。
 イネ科植物は、地球上で最も繁栄している植物群の一つであり、私たちの食料供給を支えるだけでなく、バイオ燃料などの再生可能資源としても極めて重要な役割を担っています。これまでに多くのイネ科植物のゲノムが解読され、その特徴についての理解は進んできました。しかし、それらの特徴がいつ獲得され、イネ科植物の繁栄にどのように貢献したかについては、これまで十分に解明されていませんでした。
 研究チームは今回、イネ科植物に最も近縁な野生植物4種の高品質ゲノムを世界で初めて解読しました。これは、ヒトの進化を理解するためにチンパンジーのゲノムを比較対象として用いるのと同様のアプローチです。これらのゲノムを用いた比較解析により、イネ科植物の誕生前後に起こった二つの重要な進化的変化を明らかにしました。
 第一に、古代にゲノム全体が倍増する全ゲノム重複※1が起きたことで、穀粒の胚乳へ大量のデンプンを蓄積するための主要な酵素や輸送体が進化し、穀物の高い生産性を支える基盤が形成されたことを示しました。第二に、それよりもさらに古い時代に起こった特定遺伝子の重複によって、植物体を支える主要成分であるリグニン※2を効率的に合成する新たな酵素が誕生したことを明らかにしました。
 さらに、生化学解析および立体構造解析によって、酵素のアミノ酸配列に生じたわずか2つの変化が、この新機能獲得の鍵となったことを突き止めました。
 本研究で得られたゲノム資源と進化メカニズムに関する知見は、将来的な穀物の収量向上やバイオ燃料生産に適した作物の開発を加速すると期待されます。また、持続可能な食料・エネルギー生産の実現や地球環境の保全にも貢献することが期待されます。
 本研究成果は、2026年8月20日(木)公開(米国東部時間)の国際科学誌Scienceに掲載されました。
背景
 イネ科には、地球上の生態系を支える主要な植物種や、農業経済的に重要な作物が含まれています。イネ、コムギ、トウモロコシは人類のカロリー摂取量の50%以上を支えており、サトウキビ、ソルガム、タケは、再生可能バイオエネルギーやバイオマテリアルの原料となる豊富な糖やバイオマスを生産しています。このような高い重要性から、これまでに数多くのイネ科植物でゲノム解析が進められてきました。その結果、農業や生態学の観点から重要なイネ科植物の特徴的な形質についての理解は大きく進展しました。
 一方で、イネ科の姉妹群(最も近縁な系統)に属する種の高精度なゲノム情報が不足していたため、進化の過程で生じた遺伝子やゲノムの重複がいつ起こり、イネ科植物の特徴的な形質の獲得にどのように貢献したのかについては、これまで十分に解明されていませんでした。こうした進化の歴史を明らかにすることは、イネ科植物の繁栄を支えた仕組みを解明するだけでなく、新たな機能がどのように誕生し、生物の多様化や環境適応をもたらしてきたのかを理解する上でも重要です。
研究手法・研究成果



 本研究では、イネ科全体に最も近縁なジョインビレア科とエクディオコレア科をそれぞれ代表する植物、Joinvillea ascendens(ジョインビレア・アセンデンス)とEcdeiocolea monostachya(エクディオコレア・モノスタキア)のゲノムを解読しました。さらに、初期に分岐したイネ科植物であるPharus latifolius(ファルス・ラティフォリウス)と、イネ目のTypha latifolia(ガマ)のゲノムも解読しました。新たに構築された高品質なゲノムを用いた比較ゲノム解析により、イネ科全体の大元となる祖先(図の黒丸)で全ゲノム重複が起こったことを特定しました。
 さらに、比較ゲノム解析により、イネ科植物に特徴的なデンプンおよびリグニンの効率的な生合成能力が、進化の過程でいつ、どのように獲得されたのかを明らかにしました。
 まず、イネ科植物の穀粒が大量のデンプンを蓄積できる背景には、全ゲノム重複が大きく関与していることがわかりました。特に、穀粒の胚乳において、細胞質でのデンプン生合成を担う主要な酵素や輸送体は、この全ゲノム重複によって生じた遺伝子を起源として進化したことが明らかになりました。一方、植物の体を支える主要成分のリグニンについては、ほとんどの植物が持つフェニルアラニン経路に加えて、イネ科植物ではチロシンを使った経路も併せ持つことが知られていました。本研究により、この特徴的な経路はイネ科が誕生する以前にすでに獲得されていたことが明らかになりました。具体的には、リグニン生合成の入り口となる反応を担うフェニルアラニンアンモニアリアーゼ※3(PAL)遺伝子が遺伝子重複(図の赤丸)を起こし、その一方がフェニルアラニンだけでなくチロシンも利用できるフェニルアラニン/チロシンアンモニアリアーゼ(PTAL)へと進化したことが分かりました。この進化により、イネ科植物とその姉妹種(J. ascendensおよびE. monostachya)の共通祖先において、チロシンを利用した新たなリグニン生合成経路が獲得されたことが示されました。
 さらに、分子系統解析、生化学解析、およびタンパク質構造解析を組み合わせることで、PTAL酵素が新たな機能を獲得した仕組みを発見しました。研究チームは、進化の過程で生じた多数のアミノ酸変化に着目し、それらをさまざまに組み合わせた酵素を人工的に作製して機能を比較しました。その結果、数多くの候補の中から、わずか2か所のアミノ酸置換がフェニルアラニンだけでなくチロシンを利用する能力を生み出した決定的な変化であることを明らかにしました。さらに、この2つのアミノ酸置換を他の植物のPAL酵素に導入することで、PTAL酵素を再現することに成功しました。
今後の展望
 本研究では、ゲノム解析、生化学的解析、タンパク質構造解析を組み合わせることで、イネ科植物の誕生に先立って起こった特徴的な代謝機能の獲得時期と、その分子機構を明らかにしました。この成果は、イネ科植物とその近縁種との高精度な系統関係の解明により初めて可能になったものです。また、本研究により、異なる遺伝子重複が、イネ科植物に特有の形質の進化を促した重要な原動力であったことが示されました。
 また本研究で解読した近縁種の高品質ゲノムは、イネ科植物が生態学的・農業的に大きな成功を収めた要因を解明するための重要なリソースとなります。今後、イネ科植物に特有の形質を生み出した進化機構の理解が進むことで、イネ科植物が多く存在する生態系の保全に新たな知見をもたらすと考えられます。また、食料、飼料、バイオエネルギー、バイオマテリアルの持続可能な生産に向けた、穀物やその他のイネ科作物の育種および遺伝子工学技術の発展につながることが期待されます。

用語解説

全ゲノム重複:生物がもつ全ての遺伝情報(ゲノム)が一度に倍増する現象。植物の進化や新たな遺伝子機能の獲得に重要な役割を果たしたと考えられている。
リグニン:植物の細胞壁を構成する主要な芳香族高分子。植物に強度や耐久性を与える一方、木材やバイオマスの主要成分として産業利用も期待されている。
フェニルアラニンアンモニアリアーゼ:植物の芳香族アミノ酸であるフェニルアラニンを出発物質として、リグニンなどの芳香族化合物の生合成の入り口となる反応を担う酵素。

論文情報

表題:Genomes of Poaceae relatives reveal key metabolic innovations preceding the evolution of grasses(イネ科の姉妹群ゲノムが解き明かすイネ科誕生以前の重要な代謝進化)
著者:木村ゆり1,2, Bethany Moore1, Samuel Holden3, Jae S. Morris4, Sontosh K. Deb5, Carly Sanders1, Jorge El-Azaz1, Matt Barrett6, David Lorence7, Marcos V. V. de Oliveira1, Wynne Havranek4, Jane Grimwood8, Melissa Williams8, Lori Beth Boston8, Jerry Jenkins8, Christopher Plott8, Shengqiang Shu9, Kerrie Barry9, David M. Goodstein9, Jeremy Schmutz8,9, Joseph M. Jez4, Matthew J. Moscou3,10, Michael R. McKain5,11, James H. Leebens-Mack12*,  Hiroshi A. Maeda1*
所属:1ウィスコンシン大学マディソン校 植物学科、2山形大学農学部3イーストアングリア大学 セインズベリー研究所、4ワシントン大学セントルイス校 生物学科、5アラバマ大学 生物科学科、6オーストラリア熱帯植物標本館、7国立熱帯植物園、8ハドソンアルファ・バイオテクノロジー研究所、9米国エネルギー省合同ゲノム研究所、10米国農務省農業研究局(USDA-ARS)穀物病害研究所、11アラバマ大学 アラバマ水研究所、12ジョージア大学 植物生物学科
雑誌:Science (米国科学振興協会(AAAS)発行)
DOI:10.1126/science.adv0443
URL:  https://doi.org/10.1126/science.adv0443
公開日:2026年8月20日(日本時間8月21日)
研究支援
本研究は、米国国立科学財団(NSF)、米国農務省(USDA)、英国研究・イノベーション機構バイオテクノロジー・生物科学研究会議(BBSRC)、ギャツビー慈善財団などの支援を受けて実施されました。木村ゆりは、日本学術振興会(JSPS)海外特別研究員制度の支援を受けました。また、一部のゲノム解析は米国エネルギー省(DOE)合同ゲノム研究所(JGI)で実施され、研究の一部はDOE関連の大型放射光施設を利用して行われました。
参考リンク
研究者情報ー木村ゆり 助教
農学部