星形成ハブにおける巨大な星の誕生を促進する低密度ガス流を発見~捉えにくかったガスの動きを観測し、星形成の新たなプロセスを明らかに~
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 大質量星の形成には高密度フィラメントだけでなく低密度ガスも重要な役割を果たしているという新たな視点を示す |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
重力崩壊/中性子/同位体/データ解析/ブラックホール/原始星/恒星/新星/数値シミュレーション/星形成/星形成領域/太陽/太陽系/大質量星/中性子星/超新星/天体物理学/電波望遠鏡/分子雲/望遠鏡/水素分子/シミュレーション/物質循環/水素ガス/寿命/ADC
ポイント
巨大なガスと塵からなる分子雲は「星のゆりかご」(※1)と呼ばれ、その内部では、高密度ガスがフィラメント(※2)という細長い糸状の構造に沿って中心にある結合点(ハブ)に流れ込み、星団や大質量星の形成に適した条件を作り出す物質を供給している。このハブ-フィラメント系(※3)については、これまで系全体の特性や高密度ガスが重力によって蓄積していくガス降着は研究されてきたが、フィラメント間を満たす大量の低密度ガスの流れが大質量星(※4)の形成に与える影響については解明されていなかった。
本研究では、いっかくじゅう座R2星形成領域(Monoceros R2 star-forming region)(※5)におけるフィラメント間の低密度ガスとフィラメント内の高密度ガスの流れを調査し、大質量星の形成には高密度フィラメントだけでなく低密度ガスも重要な役割を果たしているという新たな視点を示した。
このハブ-フィラメント系における大質量星形成過程が宇宙全体にも適用可能かどうか、解明が期待される。
発表概要
恒星は巨大なガスと塵からなる分子雲の内部で形成されますが、その過程は決して一様ではありません。分子雲の内部では、フィラメントが形成され、フィラメント同士が結合したハブと呼ばれる高密度な中心部に流れ込むように集まり、星団や大質量星が生まれます。先行研究では、高密度ガスがフィラメントに沿ってハブに流れ込むことが示されてきました。一方で、フィラメント間の領域を満たす低密度ガスの役割はあまり知られておらず、星の形成に必要な物質を集める過程は十分に解明されていませんでした。九州大学高等研究院のファン・ジヘ助教、アルズマニアン・ドリス准教授、九州共立大学の島尻 芳人教授、九州大学大学院理学研究院の町田 正博教授、名古屋大学の犬塚修一郎教授、香川大学の徳田 一起講師、ポルト大学M.S.Nクマール博士からなる研究チームはいっかくじゅう座R2星形成領域にあるハブ-フィラメント構造のガスの動きを調査するため、国立天文台 野辺山宇宙電波観測所45m電波望遠鏡で観測した一酸化炭素の同位体、¹³COおよびC¹⁸Oのデータから、3つの高密度フィラメントと3つのフィラメント間領域を特定し、ハブと周辺のフィラメントに向かうガスの動きを測定しました。分析によれば、高密度フィラメント内のガスはフィラメント間領域にあるガスよりも速い速度でハブに流れ込むことがわかりました。
同時に、フィラメント間領域にあるガスの少なくとも30% が近くにあるフィラメントの外側からフィラメントに対して垂直に流入し、その後、ハブに流れ込むと考えられます。ハブに流れ込む物質の推定量は、高密度フィラメントのみに流れ込むガスの推定値より約50%増加していました。
また、研究チームは、やがて恒星を生み出す高密度でコンパクトなガスの塊(高密度コア)の分布状況を調査しました。ハブの内部にあるコア部分はその外側よりも質量が大きく、高温でした。観測結果はガスが継続的に流入することで、大質量星が形成されやすい高密度環境が作られていることを示唆しています。
今回の観測結果は、フィラメント間の低密度ガスは、高密度構造間の領域を埋めるだけの存在ではなく、ハブ-フィラメント系における重要な構成要素であり、高密度フィラメントへの物質を供給し、ハブの成長にも直接的に貢献することがわかりました。
星のゆりかごが大質量星の形成に必要な物質を集積する仕組みについて、その全体像が明らかになりました。さらに、この研究では、宇宙における大規模な物質循環を理解するために高密度と低密度な状態の両方を調査する重要性を示しています。 本研究成果は雑誌「The Astrophysical Journal Letters」に2026年4月に掲載されました。

図1 いっかくじゅう座R2星形成領域に流れ込む分子ガス分布の模式図 (クレジット:ファン・ジヘ、中村優梨佳)
いっかくじゅう座R2のハブ-フィラメント系における水素分子ガスと運動速度の分布を示している。高密度フィラメント(緑)およびその周辺の低密度なフィラメント(青)間領域からガスが中央のハブに流れ込んでいると考えられる。
研究者からのひとこと
本研究結果は、星の形成を理解するには、高密度フィラメントだけでなく、系全体に存在するガスを考慮する必要があることを示しています。
今後の研究の展望として、この分析を他のハブ-フィラメント系にも展開し、数値シミュレーションと比較をすることで、こうしたガスの流れのパターンが宇宙の中でどの程度一般的な現象なのかを明らかにできると期待しています。(ファン・ジヘ)
用語解説
※1:星のゆりかご (Stellar Cradle)新しい恒星が生まれる場所を指す比喩表現で、ガスと塵(ダスト)からなる巨大分子雲の中で、星形成が進行している領域を意味する。
※2:フィラメント (Filament)
分子雲の中で、星の材料となるガスが糸状に細長く集まってできた筋状・繊維状の構造。
長さは数光年から数十光年に及び、幅は比較的狭く、約0.3光年程度のものが多い。
※3:ハブ-フィラメント系 (Hub-filament system)
複数のフィラメントが1点に収束し、その交差点であるハブが高密度・高質量となる構造。ハブでは大質量星や星団などの形成が活発に行われている。
※4:大質量星(Massive star)
太陽の約8倍以上の質量を持つ恒星。非常に明るく、高温で、青白い。寿命は数百万年と短く、最終的には重力崩壊型超新星として爆発し、中性子星やブラックホールを形成する。
※5:いっかくじゅう座R2星形成領域(Monoceros R2 star-forming region) 地球から約830〜900光年の距離にある、太陽系に比較的近い大規模な星形成領域。多数の恒星や原始星、H II領域(電離した水素ガス領域)を含み、現在も活発に星が誕生しているところから、ハブ-フィラメント系(hub–filament system)の典型例として認識されている。
謝辞
野辺山45m電波望遠鏡は、国立天文台野辺山宇宙電波観測所によって運用されています。
本研究は、国立天文台大学支援経費(2025年度)の一部支援を受けて実施されました。
データ解析の一部は、国立天文台天文データセンター(ADC)が運用する多波長データ解析システムを用いて行われました。
本研究では、Herschel HOBYSプロジェクト(http://hobys-herschel.cea.fr)のデータを利用しました。HOBYSは、SPIRE Specialist Astronomy Group 3(SAG3)、マルセイユ天体物理学研究所(LAM)の研究者、およびHerschel Science Center(HSC)の研究者らによって共同で実施されたHerschelの主要プロジェクト(Key Project)です。
また、本研究は国立天文台大学支援経費(2025年度)の一部支援を受けています。データ解析の一部は、国立天文台天文データセンター(ADC)が運用する多波長データ解析システムを用いて行われました。
使用施設:国立天文台 野辺山宇宙電波観測所45m電波望遠鏡
論文情報
掲載誌: The Astrophysical Journal Lettersタイトル:From Interfilamentary Gas to Filaments and Hubs: Gas Flows in the Monoceros R2 Hub–Filament System
著者名: Jihye Hwang, Doris Arzoumanian, Yoshito Shimajiri, Masahiro N. Machida, Shu-ichiro Inutsuka, M. S. N. Kumar, Shingo Nozaki, and Kazuki Tokuda
DOI:10.3847/2041-8213/ae6f0f
本リリースについて
本リリースは、野辺山宇宙電波観測所と九州大学の 2 者で同時配信しています。
野辺山宇宙電波観測所
九州大学: 星形成ハブにおける巨大な星の誕生を促進する低密度ガス流を発見
自然科学研究機構 研究