DHA含有リン脂質を直接観察する新技術の開発
DHAは脂質ラフトを壊さずに適度に緩める 理学研究院 松森信明 教授
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | DHAによる脳機能維持の分子メカニズムや神経疾患研究への展開が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【持続可能な開発目標(SDGs)】
【Sagaキーワード】
持続可能/持続可能な開発/光プローブ/脂質膜/脂質ラフト/ドコサヘキサエン酸/細胞膜/アラキドン酸/アルツハイマー病/プローブ/リン脂質/蛍光プローブ/蛍光色素/脂肪酸/神経細胞/脳機能/不飽和脂肪酸/膜タンパク質/コレステロール/脂質/神経疾患/認知機能
2026.08.07
研究成果Life & HealthPhysics & Chemistry
発表のポイント
DHA(ドコサヘキサエン酸)(※1) 含有リン脂質 (DHA-PL) を脂質膜中で直接観察できる新しい蛍光プローブを開発DHA-PLが脂質ラフト(※2)を壊さずに適度に緩めることを解明
DHAによる脳機能維持の分子メカニズムや神経疾患研究への展開が期待
発表概要
DHA(ドコサヘキサエン酸)は、青魚などに多く含まれ、「脳に良い脂質」として広く知られています。実際に、DHAは脳の発達や認知機能の維持に重要な役割を果たすことが報告されています。しかし、DHAが細胞の中でどのような仕組みによって脳機能を支えているのかについては、まだ多くの点が明らかになっていません。細胞内でDHAは遊離した脂肪酸として存在するのではなく、主にDHA含有リン脂質 (DHA-PL) として細胞膜を構成しています。一方、神経細胞の細胞膜には、「脂質ラフト」と呼ばれるコレステロールやスフィンゴ脂質に富む周囲よりも硬い膜領域が存在し、神経伝達や膜タンパク質の働きを制御する重要な役割を担っています。これまでDHA-PLは脂質ラフトの性質に影響を与えると考えられてきましたが、細胞膜中でDHA-PLがどのように振る舞うのかを直接調べる手段がありませんでした。九州大学大学院理学府の清水浩太郎大学院生と大学院理学研究院の松森信明教授の研究グループは、細胞膜中のDHA-PLを直接観察できる新しい蛍光脂質 (※3) を開発しました。この蛍光脂質を用いることでDHA-PLの膜中での挙動を可視化し、脂質ラフトに及ぼす影響を詳細に解析することに成功しました。
その結果、DHA-PLは脂質ラフトを壊すのではなく、その硬さをほどよく和らげることを明らかにしました。一方で、構造のよく似たアラキドン酸を含むリン脂質にはこのような働きはなく、DHA-PLに特徴的な作用であることがわかりました。脂質ラフトは神経細胞膜における情報伝達に重要な役割を果たしていることから、DHAが脂質ラフトの性質を適度に調節することが、神経細胞の正常な働きや脳機能の維持につながっている可能性があります。今後は神経細胞を用いた研究へ展開することで、DHAが神経細胞の機能や脳機能を調節する分子メカニズムの解明が期待されます。また、アルツハイマー病をはじめとする神経疾患との関連を明らかにする研究へ発展することが期待されます。
本研究成果は、米国化学会の国際科学誌「Langmuir」に2026年7月15日付で掲載されました。また、本研究はJSPS科研費(JP25H00913、JP25K22313)などの支援を受けて実施しました。
図1. 開発した蛍光DHA含有リン脂質と解析によって得られたDHA含有リン脂質の作用モデル

研究者からひとこと
魚やサプリメントなどに含まれるDHAは、細胞膜でリン脂質の形で存在するにも関わらず、細胞膜中での役割に焦点があたっておらず、研究が進んでいませんでした。開発した蛍光DHA含有リン脂質はその遅れを取り戻し、「DHAを摂取するとなぜ頭がよくなるのか?」という問いを、細胞膜の側面から明らかにするツールになると考えています。(松森信明)
用語解説
(※1) DHA(ドコサヘキサエン酸)・・・魚に多く含まれているω3系多価不飽和脂肪酸の1種。ヒトの脳に多く存在する。
(※2) 脂質ラフト
・・・スフィンゴ脂質とコレステロールが集まってできる、細胞膜中の微小な領域。情報伝達の足場として働く。
(※3) 蛍光脂質
・・・脂質分子に蛍光色素を結合させたもの、蛍光を利用して脂質分子の動きや局在を可視化できる。
論文情報
掲載誌:Langmuirタイトル:Raft Affinity and Membrane Modulation of Docosahexaenoic Acid-Containing Phospholipids Revealed by Comparative Analysis Using Fluorescently Labeled Lipids
著者名:Kotaro Shimizu、Yo Yano、Masanao Kinoshita、Nobuaki Matsumori
DOI:10.1021/acs.langmuir.6c02774
本件の詳細はこちら
お問い合わせ先
理学研究院 松森信明 教授 九州大学への寄附はこちら
SDGs 3
九州大学 研究