[Top page] [日刊 研究最前線 知尋] [Discovery Saga総合案内] [大学別アーカイブス] [Discovery Saga会員のご案内] [産学連携のご案内] [会社概要] [お問い合わせ]

東京大学 研究Discovery Saga
2026年8月7日

屋久島の稀少な固有種と考えられてきたハベマメシジミの正体を解明

―形態・DNA分析による分類の見直し―

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
長年停滞していた日本産マメシジミ類の分類学的研究を前進させるとともに、国内のマメシジミ類の分布様式の見直しに貢献することが期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
環境学生物学工学農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
海洋/生物多様性保全/個体群/文化財保護/絶滅危惧種/DNA分析/生物多様性/二枚貝/ハプロタイプ/うつ

DATE2026.08.07#Press Releases

発表のポイント

微小な二枚貝であるハベマメシジミの分類を形態とDNAから再検討し、世界に広く分布するハイイロマメシジミと同種であることを明らかにしました。
約70年間未記載種と考えられてきたハベマメシジミの分類を更新するとともに、屋久島の高地だけでなく低地にも生息することを初めて明らかにしました。
本成果は、長年停滞していた日本産マメシジミ類の分類学的研究を前進させるとともに、国内のマメシジミ類の分布様式の見直しに貢献することが期待されます。




ハベマメシジミ

概要

東京大学大学院理学系研究科の澤田直人特任研究員、屋久島町の小西祐伸氏、上野あや氏、静岡大学の伊藤舜助教、総合研究大学院大学の石井康人大学院生、マサリク大学の齊藤匠研究員、東海大学の香川理助教らの研究グループは、屋久島の固有種だと考えられていたハベマメシジミが、世界に広く分布するハイイロマメシジミと同種であることを明らかにしました。本研究では形態とDNAの分析を統合することで、長年不明だった二枚貝の正体を突き止めました。
この研究成果は、7月31日付で生物学の国際誌『Biologia』に掲載されました。

発表内容

屋久島の高層湿原にすむハベマメシジミは、1955年に初めて報告されて以来、年間を通して涼しい屋久島の標高約1600 mの高地だけに生息する固有の未記載種(注1)と考えられてきました。本種はその稀少性から鹿児島県では絶滅危惧種に選定されています。しかし、その正体は長年よく分かっておらず、近年のDNA分析では世界中に分布するハイイロマメシジミEuglesa casertana (Poli, 1791)に近縁である可能性が示されていました。
本研究では、屋久島の高地だけでなく標高約10 mの低地でも新たにハベマメシジミの個体群を発見し、計4つの個体群について貝殻や軟体部の構造、DNAの特徴を他のマメシジミ類と比較しました。さらに、ハベマメシジミはこれまで高地の冷たい環境にしか生息しないと考えられていたことから、低地の生息地で水温や水位の変化も調査しました。
その結果、屋久島のハベマメシジミは典型的なハイイロマメシジミよりも蝶番(ちょうつがい)がやや狭く、独自のハプロタイプ(注2)を持つといった特徴を持っていました。しかし、現在得られている形態とDNAの情報を総合すると、ハベマメシジミとハイイロマメシジミの差異はわずかであり、この2種は同じ種であると結論づけられました。また、低地では水温が約27℃まで上昇しても生息しており、屋久島ではハイイロマメシジミが従来考えられていたよりも幅広い環境に生息できることも明らかになりました。
日本のマメシジミ類は1930年代以降、分類の見直しがほとんど進んでいませんでした。本研究は、正体不明だったハベマメシジミの分類を見直し、長年停滞していた日本のマメシジミ類の研究を前進させる成果です。また、屋久島はハイイロマメシジミの国内での南限にあたり、これまで知られていなかった低地の生息地も発見されたことで、本種の分布や保全重要性を見直す必要性が示されました。一方で、新たに見つかった低地の生息地は屋久島空港の延伸計画区域に含まれ消滅の危機に瀕しており、開発と生物多様性保全を両立させる方法の検討が望まれます。



図1:高地の生息地(左)と低地の生息地(右)
なお、本研究で調査を行なった高地の生息地は文化財保護法の特別天然記念物ならびに自然公園法の特別保護地区に指定されており、本研究は文化庁の現状変更許可(許可番号4–2172)、環境省の採捕許可(許可番号2006121)、林野庁の入林許可(許可番号33)を得て実施されました。

研究グループ構成員

東京大学
 大学院理学系研究科 生物科学専攻
澤田 直人 特任研究員(日本学術振興会 特別研究員PD)
屋久島町
小西 祐伸
上野 あや
静岡大学
 学術院理学領域
伊藤 舜 助教
総合研究大学院大学
 先端学術院
石井 康人 博士課程
 研究当時:東北大学 大学院生命科学研究科 修士課程
マサリク大学
 理学部
齊藤 匠 研究員
 研究当時:アムステルダム自由大学 研究員(日本学術振興会 海外特別研究員)
東海大学
 海洋学部
香川 理 助教
 研究当時:筑波大学 生命環境系/下田臨海実験センター 助教

論文情報

雑誌名 Biologia
論文タイト Morphology and habitat ofEuglesa casertana populations in Yakushima Island, Japan, with implications for its taxonomic status (Mollusca: Sphaeriidae)
著者 Naoto Sawada, Sukenobu Konishi, Aya Ueno, Shun Ito, Yasuto Ishii, Takumi Saito, Osamu Kagawa
DOI 10.1007/s11756-026-02272-8

研究助成

本研究は、科研費「特別研究員奨励費(課題番号:P24KJ0045)」、公益財団法人屋久島環境文化財団「屋久島生物多様性保全研究活動奨励事業」の支援により実施されました。

用語解説

注1 未記載種
他の種とは異なる独立した種だと考えられているものの、一度も命名が行われていない、あるいは正式な手続きによって学名が与えられていない種。ハベマメシジミは1955年に論文中で「Pisidium habei」という学名が与えられたものの、当時命名に必要だった要件を満たさなかったため、現在まで学名がない状態となっていました。
注2 ハプロタイプ
DNA配列の違いによって区別される遺伝的なタイプ。