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大阪大学 研究Discovery Saga
2026年7月29日

炎症はなぜ止まらなくなるのか?その「暴走スイッチ」を解明

歯周病などの炎症性疾患の治療に新たな

【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
歯周病や関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に対し、生体防御に必要な炎症を残しながら、過剰な炎症だけを抑える治療法の開発に期待
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
総合生物農学医歯薬学
【Sagaキーワード】
遺伝子改変/感染防御/炎症性疾患/炎症反応/関節/組織修復/生体防御/分子機構/歯学/歯周病/トランスクリプトーム/ファージ/マウス/マクロファージ/リウマチ/遺伝子改変マウス/関節リウマチ/小胞体/小胞体ストレス/敗血症/副作用/慢性炎症/ウイルス/ストレス/遺伝子/遺伝子発現/感染症/細菌/網羅的解析
2026-7-24●生命科学・医学系歯学研究科准教授村上 智彦

発表のポイント

細胞内の「小胞体ストレス」が、炎症を増悪・慢性化させる新たな仕組みを発見。
小胞体ストレスにより、炎症のアクセルが強まる一方で、ブレーキが弱まり、炎症が止まりにくくなることが明らかに。
歯周病や関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に対し、生体防御に必要な炎症を残しながら、過剰な炎症だけを抑える治療法の開発に期待。

発表概要

大阪大学大学院歯学研究科の中南友里招へい研究員、村上智彦准教授らの研究グループは、細胞内ストレスの一種である小胞体ストレスが、炎症を長引かせ、悪化させる仕組みを明らかにしました。
炎症は、細菌やウイルスから体を守り、組織を修復するために必要な反応です。一方で、炎症が過剰になったり長く続いたりすると、歯周病や関節リウマチなどの慢性炎症性疾患につながります。これまで、こうした疾患の患部では小胞体ストレスが高まっていることが知られていましたが、それが炎症をどのように増強・慢性化させるのかは十分に分かっていませんでした。
今回、研究グループは、炎症関連細胞であるマクロファージを用いた遺伝子発現の網羅的解析と、複数の遺伝子改変マウスを用いた解析により、小胞体ストレスが炎症の「アクセル」(IκBζとXBP1s)を強める一方で、炎症の「ブレーキ」(Regnase-1)を弱めることを発見しました。その結果、IL-6などの炎症因子が過剰に増え、炎症が止まりにくくなることが分かりました(図)。
本研究成果により、炎症反応全体を抑え込むのではなく、増悪・慢性化した炎症応答を選択的に抑える新しい治療法の開発につながることが期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「The Journal of Immunology」に、6月27日(土)に公開されました。



図. 小胞体ストレスによる炎症の増強・慢性化機構

研究の背景

炎症は、生体防御や組織修復に不可欠な反応です。しかし、必要以上に強くなったり長く続いたりすると、歯周病、関節リウマチ、敗血症など、さまざまな炎症性疾患の発症や悪化につながります。そのため、炎症の「良い面」を保ちながら、過剰な炎症だけを抑える仕組みを理解することが重要です。
小胞体は、細胞内でタンパク質を正しい形に仕上げる「工場」のような役割を担っています。この工場に過剰な負荷がかかると、小胞体ストレスと呼ばれる状態になります。これまで、慢性炎症性疾患の患部では小胞体ストレスが高まることが知られていましたが、それが炎症の増悪や慢性化にどのようにつながるのかは明らかではありませんでした。

研究の内容

研究グループは、代表的な炎症関連細胞であるマクロファージを用い、炎症刺激と小胞体ストレスが同時に加わったときに細胞内で起こる変化を、トランスクリプトーム解析により網羅的に調べました。さらに、複数の遺伝子改変マウスを用いて、その分子機構を詳しく解析しました。
その結果、小胞体ストレスは、炎症の「アクセル」として働くIκBζとXBP1sを活性化する一方で、炎症の「ブレーキ」として働くRegnase-1の分解を促すことが分かりました。Regnase-1が減少すると、IκBζやIL-6などの炎症関連因子が増えやすくなります。特に、XBP1sはIκBζと協働することで、IL-6などの炎症関連遺伝子を強力に誘導することが明らかになりました。また、小胞体ストレスがかかったマクロファージでは、炎症を鎮め、組織修復を助けるタイプのマクロファージ(M2型)への分極も妨げられていました。
以上から、小胞体ストレスは、炎症のアクセルを強め、ブレーキを弱めるだけでなく、炎症を終わらせる仕組みも阻害することで、炎症を止まりにくくすると考えられます。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

炎症を抑える治療は多くの炎症性疾患で重要ですが、炎症は感染防御や組織修復にも必要です。そのため、炎症反応全体を強く抑え込むと、感染症リスクの増大などの副作用につながる可能性があります。本研究成果は、生体に必要な炎症を保ちながら、増悪・慢性化した「悪い炎症」を選択的に抑える治療戦略につながる可能性があります。特に、歯周病や関節リウマチなどの慢性炎症性疾患に対し、小胞体ストレスと炎症応答の接点を標的とする新しい治療法の開発が期待されます。

特記事項

本研究成果は、2026年6月27日(土)に米国科学誌「The Journal of Immunology」(オンライン)に掲載されました。
タイトル:“ER stress amplifies inflammation via a dual mechanism involving IκBζ–XBP1s synergism and Regnase-1 degradation”
著者名:Yuri Nakaminami, Lerdluck Ruengsinpinya, Riko Sakihara, Yoshifumi Takahata, Kenji Hata, Takao Iwawaki, Riko Nishimura, Tomohiko Murakami
DOI:https://doi.org/10.1093/jimmun/vkag151
なお、本研究は、科学研究費助成事業、武田科学振興財団、持田記念医学薬学振興財団などの支援を受け、大阪大学大学院歯学研究科 波多賢二教授、西村理行特任教授(常勤)、金沢医科大学総合医学研究所 岩脇隆夫教授などの協力を得て行われました。

参考URL

村上 智彦 准教授 研究者総覧
https://rd.iai.osaka-u.ac.jp/ja/356e60ce7626764f.html