超低摩擦材料の摩耗の仕組みを解明
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 摩耗を伴わず持続的な超低摩擦性の発現を可能とする摩擦材料の実現が示唆されており、機械システムのより一層の省エネルギー化に向けた新たな摩擦制御技術の創製が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
マルチモーダル/医療機器/ソフトマター/相転移/振動分光/分子構造/ポリマーブラシ/高分子/ACT/固体表面/省エネ/せん断/空間情報/計測技術/じん性/材料設計/ひずみ/ポリマー/階層構造/環境情報/機械要素/計測システム/固液界面/省エネルギー/耐久性/長寿命化/同時計測/摩擦係数/層構造/階層性/関節/人工関節/寿命/軟骨
摩擦場の力学情報・空間情報・分子情報を同時に観測する新手法で明らかに
本研究のポイント
・摩擦場の力学情報・空間情報・分子情報の同時計測を可能とする手法を開発・超低摩擦材料の固液界面における力学的・分子論的な階層性の可視化に成功
・摩耗の起源はガラス相転移誘起の伸長ひずみと判明
研究概要
横浜国立大学大学院環境情報研究院の大久保光准教授らの研究グループは、摩擦場の力学情報・空間情報・分子情報の同時計測を可能とする独自の装置を開発し、超低摩擦材料である「濃厚ポリマーブラシ」の摩耗の起源を分子レベルで解明しました(図1)。本研究成果により、摩耗を伴わず持続的な超低摩擦性の発現を可能とする摩擦材料の実現が示唆されており、機械システムのより一層の省エネルギー化に向けた新たな摩擦制御技術の創製が期待されます。本研究成果は、「ACS Applied Materials & Interfaces」に2026年7月27日に掲載されました。
社会的な背景
私たちの関節がなめらかに動くのは、軟骨表面を覆う軟質なブラシ状の分子構造が優れた潤滑機能を発揮しているためです。この生体機構を模倣した「濃厚ポリマーブラシ[用語1]」は、高密度に修飾された高分子鎖が溶媒中で伸長した構造を形成することで極めて低い摩擦係数(µ≤0.01)を実現する材料として注目され、精密機械の摺動(しゅうどう)部材への応用が期待されています。しかし耐久性が低く、長期利用には課題があります。特に摩耗の仕組みが未解明であることが、実用化の障壁となっていました。研究成果
摩擦界面では接触・摩擦状態が時々刻々と変化するため、従来の計測手法では力学的・空間的・分子論的な情報を同時に取得できず、摩擦・摩耗機構の全容解明は困難でした。本研究では、表面力顕微鏡(力学情報)、光干渉分光(空間情報)、振動分光(分子情報)を統合し、従来は個別にしか得られなかった複数の情報を実際の摩擦状態において同一条件下で同時取得可能とする「マルチモーダル・オペランド同時計測システム[用語2]」を開発・実証しました(図2)。従来は個別にしか得られなかったこれらの情報を同一条件下で同時に取得することで、濃厚ポリマーブラシ(CPB, Concentrated Polymer Brush)の層構造(希薄層/準希薄層/中間層/濃厚層)と各層の摩耗の進み方(挙動)を可視化しました。さらに、圧縮・せん断力印加時に濃厚ポリマーブラシがガラス相転移[用語3]を起こし、それに伴う高分子鎖への伸長ひずみが蓄積することが摩耗の起源となっていることを明らかにしました(図3)。

今後の展開
超低摩擦材料の摩耗メカニズムを分子レベルで解明した本成果は、「超低摩擦性と強靭性を両立する次世代材料」の開発に向けた設計指針を与えるものです。今後は、本研究で得られた知見に基づく材料設計により、精密機械・航空宇宙機器・医療機器(人工関節等)といった摺動部材の高機能化と長寿命化への展開が期待されます。加えて、本研究で構築した同時計測システムのさらなる高度化により、摩耗プロセスのより詳細な解明や、多様な材料系への適用拡大を進めていくことが期待されます。謝辞
本研究は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 ACT-X「SRT材料の潤滑機構の階層的な理解と新機能開拓」(課題番号:JPMJAX23D4、研究代表者:大久保光)の支援を受けて実施されました。また、同 戦略的創造研究推進事業 ERATO「酒井複素ゲルプロジェクト」(課題番号:JPMJER2401、研究総括:酒井崇匡)、戦略的創造研究推進事業 CREST「超低摩擦ポリマーブラシの摩耗現象の階層的理解と制御」(課題番号:JPMJCR2193、研究代表者:辻井敬亘)、創発的研究支援事業「生体的階層構造と機能に基づく革新的ソフトマター摺動機械要素の創発」(課題番号:JPMJFR243Y、研究代表者:大久保光)の各事業からも一部支援を受けています。用語解説
[用語1]濃厚ポリマーブラシ:固体表面に高分子鎖の一端を高密度に化学修飾した材料。良溶媒中で高分子鎖が伸びきり構造をとることで、極めて低い摩擦係数を発現する。
[用語2]
マルチモーダル・オペランド同時計測システム:複数の測定手法を組み合わせて(=マルチモーダル)摩擦状態をその場(=オペランド)で計測する技術。力学情報・空間情報・分子情報等の複数の計測手法を統合し、材料が実際に機能している最中(その場)の状態を同時多角的に観察する計測手法。
[用語3]
ガラス相転移:高分子が、温度や応力等の条件によって、ゴム状の柔らかい状態とガラス状の硬い状態との間で可逆的に変化する現象。
論文情報
| 掲載誌 | ACS Applied Materials & Interfaces(American Chemical Society) |
|---|---|
| タイトル | Multimodal Operando Characterization of Layering and Wear at Concentrated Polymer Brush Interfaces |
| 著者 | Hikaru Okubo*、Daiki Kagiwata、Toru Takeuchi、Ken Nakano、Yoshinobu Tsujii(*責任著者) |
| DOI | 10.1021/acsami.6c11287 |
資料
プレスリリース研究者プロフィール
大久保 光
大学院環境情報研究院 准教授
問い合わせ先
<研究に関すること>横浜国立大学 大学院環境情報研究院 准教授 大久保 光
メールアドレス: okubo-hikaru-xp
ynu.ac.jp
<報道に関すること>
横浜国立大学 総務企画部 リレーション推進課
メールアドレス: press
ynu.ac.jp
(担当:リレーション推進課)
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