黒潮大蛇行がマサバの成長と生残を低下させた仕組みを解明
―長期大蛇行による2018–2024年の流れの変化が影響―
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
海洋/地球温暖化/海面水温/黒潮続流/数値実験/衛星/衛星観測/数値シミュレーション/クロロフィル/持続可能/シミュレーション/海洋環境/持続可能性/数値モデル/海洋生物/プランクトン/温暖化/親潮/生物資源
2026年7月14日
東京大学
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発表のポイント
◆マサバの成長、回遊、個体数変動を再現できるモデルを開発し、黒潮大蛇行時にあたる2018-2024年のマサバの応答を調べた。◆黒潮大蛇行に伴う黒潮続流の北偏によって餌料プランクトンの供給が減少し、1月から4月生まれのマサバ0歳魚の成長と生残に不利な状況が生じた。
◆さらに主体となる5月から6月生まれのマサバの卵仔魚が沿岸流によって北偏した黒潮続流へ運ばれ、餌料環境の悪い海域へと輸送され、成長と生残が悪化したことがわかった。

黒潮大蛇行によるマサバの小型化と資源減少の概念図
発表概要
東京大学大学院農学生命科学研究科の王子欽大学院生と同大学大気海洋研究所の伊藤進一教授の研究グループは2017年8月に発生し2025年4月まで7年9ヶ月に渡り観測史上最長期間継続した黒潮大蛇行(注1、以降、黒潮大蛇行と記述)がマサバ0歳魚の成長と生残に与えた影響を数値シミュレーションから明らかにしました。数値シミュレーションの結果、黒潮大蛇行が餌料プランクトンの生産を下げたことで1月から4月生まれのマサバの体重減少を引き起こし、さらに主体となる5月から6月生まれのマサバに関しては、黒潮大蛇行に伴い北偏した黒潮続流(注2)へと沿岸流がマサバ卵仔魚を運び、黒潮続流が餌料環境の悪い海域へと輸送したことで成長と生残が悪化したことが明らかになりました(図1)。
図1:数値シミュレーションによる平常時と比較した場合の黒潮大蛇行時のマサバ資源量分布の変化(青色:平常時より減少,赤色:平常時より増加)。黒潮大蛇行期は、餌料環境の良い黒潮続流以北の海域の資源量が減少し、餌料環境の悪い黒潮続流以南の海域に多くのマサバが分布。赤実線は平常時の黒潮および黒潮続流。赤破線は黒潮大蛇行時の黒潮および黒潮続流。Wang and Ito (2026)より。
発表内容
マサバ太平洋系群は、伊豆諸島周辺から本州南岸域にかけて産卵し、卵・仔魚は黒潮および黒潮続流によって沖合へ輸送され、成長に伴って遊泳能力を獲得した稚魚は餌料の豊富な親潮・黒潮混合水域、そして北海道東方はるか沖合の索餌場へと移動します(図2)。初期に良好な水温と餌料環境を経験し、黒潮続流の北側に到達できるかどうかが成長そして生残を左右します。
図2:マサバの回遊と黒潮および黒潮続流。黒実線:平常時の黒潮および黒潮続流、黒破線:黒潮大蛇行時の黒潮及び黒潮続流、橙色:マサバの産卵場、水色:マサバの索餌場、水色矢印:索餌回遊、灰色矢印:越冬回遊。
日本南岸を流れる黒潮は、マサバをはじめ、様々な魚類の産卵場、生育場となっています。2017年8月に発生した黒潮大蛇行は、2025年4月まで7年9ヶ月に渡り継続し、観測史上最長となりました。この黒潮大蛇行に伴い、本州南岸だけでなく、黒潮続流の位置も大きく北偏し、常磐・東北海域の水温が異常昇温しました。同時期にマサバが小型化し、資源量も減少したことが報告されていましたが、マサバの変化に同時期に生じている黒潮大蛇行が影響していたのかどうか不明なままでした。
本研究では、衛星観測に基づく海面水温、クロロフィルa濃度(餌料プランクトン量を指標)、表層流速を用いて、マサバの成長、回遊、個体数変動を再現できる数値モデルを開発し、黒潮大蛇行以前(1998–2017年、以後平常時と記述)と黒潮大蛇行時(2018–2024年)における数値実験を行い、黒潮大蛇行がマサバ0歳魚に及ぼす影響をしらべました。その結果、1月から4月生まれのマサバは餌料プランクトンの低下によって体重が減少し、さらに主体となる5月から6月生まれのマサバは北偏した黒潮続流へと仔魚を運ぶ沿岸流によって餌料環境の悪い海域に輸送され、成長と生残が悪化したことがわかりました(図3)。

図3:生まれ月別のマサバの資源量の減少量(青)と産卵量当たりの0歳魚生残数(RPE:注3)の減少量(黄色)
黒潮大蛇行に伴う黒潮続流の北偏によって、常磐・三陸海域では5℃以上の水温上昇が観測され、大規模な海洋熱波として認識されています。地球温暖化が進行した将来はさらに海洋熱波が頻発することが危惧されており、本研究は海洋熱波の際にマサバの管理を強化する必要があることを示しています。
発表者・研究者等情報
東京大学大学院農学生命科学研究科
王 子欽 博士課程
大気海洋研究所
伊藤 進一 教授
論文情報
雑誌名:Progress in Oceanography題 名:Impacts of Kuroshio large meander on growth, distribution, and recruitment of chub mackerel (Scomber japonicus) during 2018–2024 in the Northwestern Pacific
著者名:Ziqin Wang, Shin-ichi Ito
DOI: 10.1016/j.pocean.2026.103784
URL:https://doi.org/10.1016/j.pocean.2026.103784
研究助成
本研究は、科学技術振興機構(JST)「次世代研究者挑戦的研究プログラム(SPRING)」、科研費 学術変革領域研究(A) 「ハビタブル日本 - 島嶼国日本の生存基盤をなす大気・海洋環境の持続可能性」公募研究「A01-K106魚類成長-回遊モデルを用いた2010年代における魚類の体重減少原因の解明(課題番号:JP25H02072)」、基盤研究(A)「海洋中規模渦が作る海洋生物の棲み分け構造の解明(課題番号:JP26H02332)」の支援により実施されました。用語解説
- (注1)黒潮大蛇行
- 日本南岸を流れる黒潮が紀伊半島沖から東海沖で大きく南へ蛇行する流路を長期間とる状態。気象庁では東海沖(東経136度~140度)で北緯32度以南まで大きく蛇行して流れていて、かつ潮岬で黒潮が安定して離岸している状態を黒潮大蛇行と定義している。
- (注2)黒潮続流
- 日本南岸を流れる黒潮が房総半島付近で東向きに向きを変えて流れている流れを黒潮続流と呼ぶ。
- (注3)RPE(Recruitment per egg)
- 産卵1個あたりに対して最終的に生残した個体数の割合を表す指標。
問い合わせ先
東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系 海洋生物資源部門教授 伊藤 進一(いとう しんいち)
E-mail:goito◎aori.u-tokyo.ac.jp ※アドレスの「◎」は「@」に変換してください
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