膜タンパク質の折り畳みを補助する新しい品質管理機構を発見
~構造の安定性と機能性のジレンマを解消~
【注目の成果:共同研究・産学連携のためのチェックポイント】
![]() | 真菌感染症に対する創薬への応用が期待 |
【産学連携対象 全学共通分野 Discovery Saga】
【Sagaキーワード】
深層学習/品質管理/陽子/酸化還元反応/タンパク質品質管理/酸化還元酵素/ゴルジ体/タンパク質複合体/光受容/光受容体/出芽酵母/還元反応/水環境/ロボティクス/酸化還元/大規模解析/モデル生物/親水性/構造予測/リボソーム/Saccharomyces cerevisiae/機能性/ポストゲノム/変異体/輸送体/温度感受性/細胞壁/病原性/アミノ酸配列/シャペロン/細胞形態/細胞膜/糖鎖修飾/免疫沈降/酵素反応/アミノ酸置換/アミノ酸/イオンチャネル/ヘリックス/ロドプシン/受容体/小胞体/生体膜/創薬/翻訳後修飾/膜タンパク質/網膜/網膜色素変性症/ゲノム/コレステロール/遺伝学/遺伝子/感染症/脂質/真菌
掲載日:2026.07.14
名古屋大学
長岡技術科学大学
理化学研究所
北海道大学
東京大学大学院新領域創成科学研究科
山形大学
京都大学アイセムス
発表のポイント
膜貫通タンパク質の正常な折り畳みを補助する新しい品質管理機構を発見した。酵母注1)のPbr1タンパク質が小胞体において、折り畳みが難しい多重膜貫通タンパク質Fks1注2)に寄り添って、その新規合成を補助することを明らかにした。
Pbr1は酸化還元酵素と配列相同性を有するが、推定される活性部位の配列が特殊であり、酵素反応非依存的あるいは非典型的な反応様式で働く可能性がある。
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研究概要
名古屋大学大学院理学研究科の小原 圭介 准教授は、長岡技術科学大学の大矢 禎一 特任教授、トロント大学のCharles Boone教授(理化学研究所環境資源科学研究センター チームディレクター)、ペンシルベニア大学、ローザンヌ大学、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所、北海道大学、東京大学、山形大学、京都大学アイセムスとの共同研究で、膜貫通タンパク質の折り畳みを補助する新しい仕組みを発見しました。
膜貫通タンパク質は、生体膜を介した物質や情報のやりとりなど、生命活動に欠かせない役割を果たします。膜を貫通する部分は、膜内部の疎水的環境にフィットする疎水性アミノ酸残基に富んでいます。ここに親水性残基が多く存在すると、タンパク質の構造不安定化が引き起こされ、その様な変異は多くの疾患と関わっています。
酵母のグルカン合成酵素Fks1は、細胞膜に局在する膜貫通タンパク質であり、細胞壁の主成分である親水性のグルカン鎖を細胞質領域で合成し、細胞膜を通過させて細胞外に放出します。そのため、複数の膜貫通領域によってグルカン鎖の通路を形成し、そこに親水性残基を多く配置しています。すなわち、Fks1は宿命的に折り畳みが難しいタンパク質であり、機能性と安定性との間のジレンマを抱えています。本研究グループは、小胞体タンパク質のPbr1が、小胞体において新規合成されているFks1と結合し、寄り添うようにしてその折り畳みを補助し、小胞体からの脱出を助けることを発見しました。これは、小胞体における新しい品質管理機構の発見です。
本研究の成果は、真菌感染症に対する創薬への応用が期待されます。本研究成果は、2026年7月14日午前4時(日本時間)以降に国際学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載されました。
研究背景と内容
生体膜を貫通する膜貫通タンパク質は、膜を隔てた物質や情報の交換など、生命活動に欠かせない働きをしています。その膜貫通領域は、膜内部の疎水環境にフィットする疎水性アミノ酸残基に富んでいます。ここに親水性残基が多く含まれると、タンパク質の構造不安定化のリスクが高まり、その様なアミノ酸置換を起こす変異は多くの疾患と関わっています注3)。一方、膜を横切って水やイオンを通過させるチャネルタンパク質などは、その内部に輸送通路となる穴を形成し、その内面に輸送物質と相互作用できる親水性残基を配置する必要があります。つまり、その様な膜貫通タンパク質群は、その機能を果たすため、宿命的に構造不安定化のリスクを背負っていると言えます(図1)。酵母のグルカン合成酵素Fks1は、そうしたジレンマを抱えるタンパク質の代表例です。Fks1は、細胞膜に局在する17回膜貫通タンパク質であり、細胞質側の活性部位で細胞壁の主成分であるグルカン鎖を合成し、自身の内部に形成した通路を通して細胞外に放出します。そのため、Fks1の膜貫通領域には親水性残基が多く配置されており、Fks1が小胞体で新規合成される際には折り畳みに困難が伴うと予想されます。

▲図1 膜貫通タンパク質が抱えるジレンマ
親水性の物質を通過させる膜貫通タンパク質は、その通路に親水性残基を多く配置する必要がある。膜貫通領域内の親水性残基は構造の不安定化をもたらすリスクがあるため、その様なタンパク質は、機能性と安定性のジレンマを抱えている(左)。Fks1は、細胞壁の主成分であるグルカン鎖を細胞質側の活性部位で重合し、自身の内部に形成した通路を通して細胞外に放出する(右)。
膜貫通タンパク質の折り畳みを補助する仕組みとして、小胞体膜に存在するEMC複合体注4)が知られています。EMC複合体を免疫沈降で回収すると、Fks1と共に機能未知タンパク質であるPbr1が結合してきます。PBR1遺伝子は、酵母に約1,000個存在する必須遺伝子(欠損すると致死になる遺伝子)であり、その中で機能が解明されていない最後の遺伝子群の一つです。Pbr1は、脂質に対する酸化還元酵素とアミノ酸配列の相同性を持ちますが、その機能に関する知見は全くありませんでした。本研究グループは、Pbr1の機能を明らかにするために国際共同研究を行いました。
Pbr1が働く細胞内プロセスを明らかにするために、二つの大規模解析を行いました。一つ目は、pbr1温度感受性変異体注5)の細胞形態を500以上のパラメーターで自動解析し、類似した形態的特徴を示す変異体を抽出する解析です。もう一つは、ロボティクスを用いてpbr1温度感受性変異体と他の遺伝子の変異体(5,000株以上)を掛け合わせ、その生育を指標に遺伝学的相互作用注6)を解析する手法です。興味深いことに、原理の異なるこの二つの大規模解析はどちらも、PBR1が“細胞壁の合成”に関わることを強く示唆しました。特に、細胞壁の主成分であるグルカン鎖の合成酵素Fks1との強い関連性を示しました。そこで、pbr1変異体の細胞壁を調べたところ、グルカン鎖合成活性の低下、グルカン層の薄化などfks1変異体と類似の表現型を示しました。また、pbr1変異体の温度感受性が抑えられる変異体を取得したところ、その変異体では、もとのpbr1変異に加えて、Fks1に1アミノ酸置換が起こっていることが分かりました。これらは、Pbr1が細胞壁合成に関わること、特にFks1と密接に関わることを示しています。

▲図2 pbr1変異体ではFks1がERACに蓄積する
野生型(WT)では、Fks1は出芽部位の細胞膜に局在した。pbr1-5002 および pbr1-5006 変異体では細胞膜に局在せずに、ERACに局在した(矢じり)。酵母細胞の輪郭を破線で示した。
Fks1は細胞膜に運ばれてグルカン鎖を合成します。一方、本研究グループはPbr1が小胞体膜の細胞質側の面に局在することを生化学実験で明らかにしました。そこで、両者が同 じ場所に存在する瞬間として、小胞体におけるFks1タンパク質の新規合成に注目しました。まず、pbr1変異体でFks1が正常に折り畳まれ、細胞膜に輸送されているかを調べました。その結果、Fks1は野生型では細胞壁合成が盛んな出芽部位の細胞膜に局在しましたが、pbr1変異体では細胞膜に到達せず、代わりに小胞体の一区画であるERACに蓄積していました(図2)。ERACは、折り畳みに失敗したタンパク質群が小胞体の品質管理機構注7)によって捕捉され、積極的な分解を受けるまで隔離される場所です。そこで、Fks1の量や翻訳後修飾を調べたところ、pbr1変異体ではFks1の量が大きく減少するとともに、糖鎖修飾注8)にも異常が生じていました。これらの結果から、pbr1変異体では小胞体におけるFks1の折り畳みに異常が生じていることが示唆されました。
次に、Pbr1がFks1の折り畳みを補助する仕組みを調べました。まず、Pbr1とFks1が物理的に相互作用することを免疫共沈降法などで明らかにしました。また、深層学習ツールAlphaFold3を用いた解析により、Pbr1はFks1の中でも最初に翻訳されるN末端側のアクセサリードメインと結合すると予想されました(図3)。すなわち、Pbr1はFks1の新規合成が始まると、アクセサリードメインとの結合を介してFks1を近傍に呼び寄せ、寄り添うようにして残りの部分の折り畳みを補助すると予想されます。
AlphaFold3による構造予測から、Pbr1は疎水性ヘリックスを横たえるようにして小胞体膜に食い込み、中央に酸化還元酵素によく見られるロスマンフォールド注9)を有し、そこからN末端側およびC末端側に長い腕を突き出していると考えられました(図3)。ロスマンフォールド内部には、補酵素であるNADPHが格納される可能性が示されました。また、温度感受性変異体のpbr1タンパク質では、NADPHとの結合が弱まることが示唆されました。Pbr1は、脂質に対する酸化還元酵素と相同性を有しています。しかし、Pbr1ではそれらの酵素群で保存されている補酵素結合モチーフGxxxGxG配列(xは任意のアミノ酸残基)にグルタミン残基の挿入があり、GxxxQGxGとなっていました。また、活性中心として保存されているYxxxKモチーフはFxxxKとなっていました。興味深いことに、補酵素結合モチーフ内のGをすべてAに置換しても、Pbr1は機能を有していました。また、FxxxKのKをAに置換した変異Pbr1タンパク質も機能を有していました。これらのことから、Pbr1は酸化還元反応非依存的あるいは非典型的な酸化還元反応様式を通して機能する可能性があります。

▲図3 Pbr1によるFks1の折り畳みの補助
A, AlphaFold3で予測した Pbr1(左)および Fks1(中央)の構造。Pbr1 はロスマンフォールドの上部で Fks1 のアクセサリードメイン(AC)と結合すると予測された(右)。B, Pbr1 による Fks1 の折り畳み補助に関するモデル。リボソームで Fks1 の翻訳が始まると、最初に形成されるアクセサリードメイン(AC)が Pbr1 に結合し、Pbr1 の近傍で翻訳の続きが起こる。翻訳が完了した Fks1 は Pbr1 から解離し、小胞体を脱出する。
本成果の意義
本研究では、Pbr1が小胞体膜において膜貫通タンパク質Fks1の折り畳みを補助し、小胞体からの脱出を助けることを明らかにしました。膜貫通タンパク質の折り畳みを補助することが既に知られているEMC複合体因子の欠損株は生存可能であり、Fks1も概ね正常に細胞膜に局在します。一方、PBR1遺伝子の欠損株は致死であり、部分的に働きが低下した状態でも、Fks1の折り畳みに大きな異常が生じていました。このことから、Pbr1はEMC複合体と関連を持ちながらも、新規のタンパク質品質管理機構の中心をなす因子だと考えられます。今後、Fks1の他にもPbr1の補助を受ける膜貫通タンパク質群が見つかれば、この新しい品質管理機構の概要が見えてくるでしょう。
PBR1遺伝子は、酵母に約1,000個存在する必須遺伝子の中で、機能解明を拒み続けてきた最後の遺伝子群の一つです。本研究により、酵母の必須遺伝子の全容解明というポストゲノム時代のマイルストーンに一歩近づいたと言えます。
病原性真菌のFks1を標的とした抗真菌薬は、臨床の場でも使用されていますが、耐性菌の出現が問題化しています。Fks1自身を標的とした既存薬とは異なり、Fks1の折り畳みに必要なPbr1を標的とした化合物が見つかれば、新しい機序で作用する抗真菌薬の候補となります。本研究は、真菌感染症の創薬に新しい選択肢を提供します。
本研究は、文部科学省「基盤研究(C):JP19K06561、JP22K06141」、「基盤研究(B):JP19H03205、JP22H02216、JP23K27126」、「学術変革領域研究(A):JP25H01320、JP25H01321」、「地域中核・特色のある研究大学強化促進事業(J-PEAKS):JPJS00420240017」の支援のもとで行われたものです。
用語解説
注1)酵母:ここでは出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を指す。パン作りや醸造で使われる菌類の一種。基本的な細胞の仕組みが、ヒトを含む真核生物と共通しているため、代表的なモデル生物として生命科学の研究に利用されている。
注2)Fks1:
酵母の細胞壁の主成分であるβ-(1,3)-グルカンを合成する酵素。細胞膜を17回膜貫通する膜貫通タンパク質であり、細胞質側にβ-(1,3)-グルカンを合成する活性ドメインを持つ。小胞体で翻訳されたのち、ゴルジ体を経て細胞膜に輸送されて機能する。抗真菌薬の一種であるエキノキャンディン系薬剤の標的としても知られている。
注3)膜貫通タンパク質の折り畳み不全が引き起こす疾患:
膜貫通タンパク質の折り畳み不全によって引き起こされる疾患として、塩素イオンチャネルCFTRの変異による嚢胞性線維症、コレステロール輸送体NPC1の変異によるニーマンピック病、光受容体ロドプシンの変異による網膜色素変性症などが有名である。タンパク質の膜貫通領域内の疎水性残基が親水性残基に置換されることによる構造不安定化が原因となる場合も多く報告されている。
注4)EMC複合体:
真核生物に広く保存された小胞体膜タンパク質複合体。酵母では六つのタンパク質から成り、小胞体膜において膜タンパク質の新規合成を補助する働きを持つ。
注5)温度感受性変異体:
ある温度では野生型のように正常に生存・増殖できるが、別の温度(多くの場合、高温)では、生存できなくなる変異体。機能が完全に失われると致死になる必須遺伝子に対する解析でしばしば利用される。
注6)遺伝学的相互作用:
ある遺伝子の変異が、別の遺伝子の変異の表現型に影響を与える関係。つまり、二つの遺伝子の変異が重なったときに、それぞれ単独の変異の効果から予測されるよりも表現型が重篤になったり、逆に軽減したりする関係。遺伝学的相互作用を有する遺伝子同士は、その機能に密接な関係がある場合が多い。
注7)小胞体の品質管理機構:
膜貫通タンパク質や分泌タンパク質などの合成場所である小胞体では、タンパク質が正しく折り畳まれているかをモニター/管理している。正しく折り畳まれなかったタンパク質は、シャペロンタンパク質により折り畳みの補助を受けたり、見切りをつけられて積極的に分解されたりする。
注8)糖鎖修飾:
膜貫通タンパク質や分泌タンパク質の中には、糖鎖が付加されるものがある。付加された糖鎖は、タンパク質の安定性や輸送先などに影響を与える。小胞体やゴルジ体の内腔側で起こる。
注9)ロスマンフォールド:
酸化還元酵素によく見られる構造で、NADPHなどのヌクレオチドを補酵素として結合するモチーフを有している。
論文情報
雑誌名:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America論文タイトル:Role of Pbr1, a putative oxidoreductase in the ER quality-control and folding of yeast Fks1 glucan synthase
著者:小原圭介*#(名古屋大学)、岡田啓希*(ペンシルベニア大学)、TAN Guihong*(トロント大学)、大貫慎輔(東京大学)、鈴木吾大(東京大学)、應武治香(東京大学)、久保佳蓮(東京大学)、GHANEGOLMOHAMMADI Farzan(東京大学)、石坂駿典(東京大学)、八代田陽子(理化学研究所)、大喜多葵(名古屋大学)、三城―佐藤恵美(名古屋大学)、鈴木邦律(東京大学)、田村康(山形大学)、芦根怜(京都大学)、池田幸樹(京都大学アイセムス)、嘉村巧 (名古屋大学)、VAN LEEUWEN Jolanda(ローザンヌ大学)、ANDREWS Brenda(トロント大学)、BI Erfei(ペンシルベニア大学)、野田展生(北海道大学)、BOONE Charles#(トロント大学、理化学研究所)、大矢禎一#(長岡技術科学大学)(*共同筆頭著者;#共同責任著者)
DOI:10.1073/pnas.2612792123
関連リンク
研究者情報-田村 康 教授
理学部
田村研究室
山形大学 研究